東北勢の悲願を達成できなかった。仙台育英(宮城)は東海大相模(神奈川)に9回に4点を勝ち越されて、敗れた。最大4点差の劣勢から、3-6の6回に1番佐藤将太内野手(3年)の走者一掃の三塁打で同点に追いつく粘りを発揮して、甲子園を沸かせた。高校野球100年の夏に目指した「大旗の白河越え」は、春夏合わせて3度目の準優勝に終わったが、次の100年に期待を膨らませた。

 試合終了後、悔し涙を流した仙台育英の多くの選手が、閉会式後に充実感に浸っていた。今大会3本塁打の3番平沢大河(3年)は「準優勝の結果を残せて幸せでした」。6回に走者一掃の中越え同点三塁打を放った1番佐藤将も「一番長い夏を経験できた。幸せ者です」。東北100年の悲願に届かなくても、粘って最後まで競り合った。次の100年に希望の光をともした。

 6試合目にして初めて先制された。3回表で0-4。その裏、敵失と4連打で3点を返した。3点差となった6回には、2死満塁から佐藤将の一打で振り出しに戻した。佐々木順一朗監督(55)は「一方的な試合を戻した。彼らの頑張り」とたたえた。一塁手の佐々木良介(3年)が、準決勝で死球を受けた左腕に骨折の疑いがあり欠場。投手、外野手の百目木(どめき)優貴(3年)が慣れない一塁を守り、総力で戦い抜いた。

 流れが傾きかけた9回に、エース右腕佐藤世那(3年)が4点を勝ち越された。仙台育英を含め春夏合わせて過去10度、決勝で涙をのんだ東北勢。89年夏、01年春に続く準優勝に、佐々木監督は恨めしそうに言った。「神様がうちに勝たせてくれるような試合だった。まだ勝たせてくれないのか」。優勝の難しさを再び突きつけられた。

 ただ6回の同点時には甲子園が「育英コール」で沸いた。それは仙台育英の粘りと、東北勢100年の思いに起きたものだった。平沢は「自分たちを応援してくれているんだなあ。それが一番印象に残った」と言い「次の100年で(優勝を)達成できるように、後輩たちに頑張ってほしい」と託した。

 節目の年に「大旗の白河越え」はできなかった。野球の神様が次の100年に向け、仙台育英に、みちのく勢に新しい試練を与えてくれたのかもしれない。佐々木監督は「歴史が変わった瞬間と言いたかったが、新しい歴史が始まったと実感した」と言った。来春のセンバツから、東北の悲願をかけた戦いがまた始まる。【久野朗】