すべてを達観したような表情だった。9月16日、エディオンアリーナ大阪でWBC世界スーパーバンタム級王者ウーゴ・ルイス(29=メキシコ)に挑む、長谷川穂積(35=真正)。数多くの取材申し込みを断り、ボクシング人生を懸けた大一番に向けて集中力を研ぎ澄ませて調整している“レジェンド”は、変な力みも、逆の緩みもなかった。

 「これが勝てるボクシングだというのを、少しずつつかめて来てます。それが試合で出るかは分からないけど。単純に打たせず、打ったら勝てる。それをどうしたらできるのか、どういうことなのか、ちょっとずつ分かってきました」。

 8月下旬の公開練習で、長谷川はそう語った。

 05年から5年間に渡ってWBC世界バンタム級王座を10度防衛し、まさかの敗戦後も鮮やかな復活劇で同フェザー級王者にも上り詰めた。全盛期のスピードを望むのは酷かもしれないが、ジムでの練習を見ると攻防一体のその動きには、いつもほれぼれする。そんな日本の“元エース”が、35歳になった今も自身の成長を感じていると言う。9月の試合が、より楽しみになったのは言うまでもない。

 相手のルイスは、36勝(32KO)3敗の戦績が示す通り、強打が武器。王座奪取に成功した今年2月のフリオ・セハ戦では1回51秒でTKOと強烈な内容だったが、今回は最も難しいと言われる初防衛戦。しかも、日本では12年12月のWBA世界バンタム級暫定王者時代に正規王者の亀田興毅と対戦し判定負けもしており、2年ぶりの世界戦になる長谷川が勝つチャンスも小さくはないと見る。

 「このまま行けば、チャンピオンになると思います。これでなれなかったら、おかしいと思うくらいの状態を作れている」と長谷川。5年ぶりの世界王座返り咲きが実現すれば、どれほどの感動を世間に巻き起こすのか。その瞬間が、待ち遠しい。【木村有三】