衝撃的な逆転KOだ。6回、王者田中恒成(20=畑中)は右アッパーで相手の注意を顔面に集めておいて、左ボティーフックで肝臓を正確に打ち抜いた。顔をしかめて倒れたサルダールを見て「しっかり感触があった」。最軽量ミニマム級では珍しいワンパンチKOで、5回に人生初のダウンを喫するなど劣勢だった試合をひっくり返した。
急逝した祖父健裕(けんゆう)さん(享年72)にささげる勝利だった。昨年11月7日、初防衛戦に向けて岐阜・多治見市内の自宅で決起集会が開かれた。「トイレにいってくる」と席を立った健裕さんはトイレ内で倒れた。急性心筋梗塞で救急搬送されたが、間に合わなかった。
いつも応援してくれる祖父だった。近所の家に「孫が勝ったぞ」「孫がテレビにでるぞ」と大声で触れ回った。自宅から最寄り駅まで車で送り迎えもしてくれた。「(亡くなる)当日の朝もそうだったんですけどね」と田中。告別式では試合のポスターをひつぎに入れた。この日、自宅を出る際は仏壇の骨つぼに手を合わせた。「この勝利を天国のおじいちゃんにささげます」と口にした孫の勝利に、祖母ミツエさん(71)は「天国のおじいちゃん、逆立ちして歩くぐらい喜ぶよ」と声を震わせた。
日本最速の6戦目で初防衛を果たし、今春にも階級を上げて2階級制覇を狙う。7戦目で達成すれば「怪物」井上の8戦目を上回り世界最速となる見通し。ライトフライ級は3階級制覇八重樫らがおり、ビッグマッチも実現可能となる。田中はリング上で「来年は2階級制覇に挑戦することを誓います」と言い切った。究極の目標として「日本人初の5階級制覇」を掲げる20歳が新しいステージに向かう。【益田一弘】
◆田中恒成(たなか・こうせい)1995年(平7)6月15日、岐阜・多治見市生まれ。市之倉小6年時から本格的にボクシングを始める。中京高ではライトフライ級で国体2連覇など4冠。13年11月プロデビュー。14年10月の4戦目で東洋太平洋ミニマム級王座獲得。15年5月に5戦目でWBO世界ミニマム級王座を獲得し、日本人最速で世界王者になった。中京大経済学部在学中。163センチの右ボクサーファイター。

