99年公開の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は当時としては新手のホラー映画だった。行方不明になった学生が撮った記録映像が発見され、それを編集して映画化したという体裁を取っており、手ぶれや突然途切れる映像が演出効果となって恐怖を高めていた。ビデオカメラの普及が背景にあった。

その小型軽量化を受け、9年後の「クローバーフィールド HAKAISHA」では、この手法がさらに巧妙に生かされた。

ハンディ・ビデオを例に取ったが、映画界には、その足元を揺るがしかねない新手の表現手段や電子機器の普及をも、したたかに取り込んでしまうところがある。

26日公開の「search サーチ」は、全編パソコン画面の中で展開する異色のサスペンスだ。監視映像、ソーシャル・メディア、ファイルにためられた膨大なデータ…デスクトップ型の画面の中だけで繰り広げられる物語は、窮屈なようで意外なほど視野が広がる。

韓国系アメリカ人のデビット・キム(ジョン・チョー)は3年前に妻が病死。1人娘のマーゴット(ミッシェル・ラー)と2人暮らしだ。彼が眺めるパソコンの中には家族の記録が収められており、SNSの機能を使えば、娘のマーゴットや弟のピーター(ジョセフ・リー)と瞬時に連絡が取れる。

並の知識があれば、おおよそのことはパソコンでできる。インド系米国人でグーグルのCM制作などに関わってきたアニーシュ・チャガンティ監督は序盤の順序立てた日常描写で、観客をパソコン画面の中に取り込んでいく。

高校に通う娘との会話が減り、SNSの伝言が唯一のコミュニケーションとなっていたある日、突然娘が姿を消す。娘の日常、友人…実は何も知らなかったことに思い当たる。

彼女のファイルや個人情報にアクセスしてみると、そこにはまったく知らなかった娘の素顔が浮かび上がってきた。彼の通報によって警察も動きだす。担当のヴィック捜査官(デブラ・メッシング)を検索すると、何度も表彰を受けた優秀な刑事だったが…。

虚実の境目が見えにくいネット世界。チャガンティ監督は、そのずれを巧みに利用して謎が謎を呼ぶような仕掛けを施している。複数画面での展開も、ていねいに編集されているので分かりやすい。1フレームがすべての従来映像よりむしろ雄弁に見えてくる。

視聴者提供の災害映像などで、スマホ映像のブレ具合は感覚的に知られているわけだが、撮影にはiフォンも使ったそうで、映像の適度な荒れ具合にリアリティーがある。序盤に登場する妻の闘病記録にも思わず感情移入。家族の歴史がすっと入ってきた。

まさに「今」の感覚に寄り添った作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)