米女優アン・ハサウェイ(38)には印象的な逸話がある。

カソリックの一家に育った彼女は修道女になりたいと思っていたが、15歳の時に兄がゲイだということを知る。兄思いの彼女は、その性的指向を許さない宗教には属せないと考える。彼女の思いをきっかけに結局家族全員が教会を離脱してしまう。

もう1つは30歳を目前に控えた「ダークナイト・ライジング」の撮影時。女怪盗キャットウーマンはセクシー&グラマーで「心機一転」の役柄だった。激しいアクションシーンに備えて2カ月の特訓にも耐えたが、撮影に入ってみると、彼女のために用意されたボディースーツのウエストサイズは彼女のそれより5センチも小さかった。クリストファー・ノーラン監督の容赦ない演出もあり、その時の苦しさは想像を絶するが、「撮了後に服も下着も全部脱ぎ捨てた時の解放感がたまらなかった」と不満より達成感を口にした。

不合理を感じればいかなる権威にも背を向け、理不尽な環境にも決して音を上げない。一直線で心の強い人なのだ。

そんな彼女が「大魔女」にふんすれば、目いっぱいの「怪演」となる。「魔女がいっぱい」(12月4日公開)では、耳元まで裂ける口にはきれいな歯並びがかえって怖い。特殊効果、特殊メークはおどろおどろしいが、それに左右されない目の演技で魅せてくれる。彼女の内面がにじみ出て、どこか憎めない不思議な魅力に引き込まれる。

原作は英小説家ロアルド・ダール。あの「チャーリーとチョコレート工場」や「ジャイアント・ピーチ」の異世界は、ティム・バートン監督のブラックユーモアに見事にはまったが、今回もダール世界に親和性のあるスタッフが集まった。「シェイプ・オブ・ウオーター」のギレルモ・デル・トロ監督が脚本に参加。CGやVFXが得意なロバート・ゼメキス監督がメガホンを取っている。

60年代の豪華ホテルに現れたおしゃれな集団の正体は実は魔女の集会。その中心にいた大魔女は「恐ろしい計画」を明らかにする。集会に紛れ込んだ少年はその秘密を知ってしまい…。

思いっきり飛躍した世界での思いっきりの怪演。アン・ハサウェイがはじけている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)