レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという2大スターの初共演で話題の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が、26日に全米公開されました。カルト集団マンソン・ファミリーによる女優シャロン・テート殺害事件が起きた1969年のロサンゼルスを舞台にハリウッドの黄金期の光と闇を描いた本作は、フィクションながら実在する多くのキャラクターも登場しています。ディカプリオ演じる落ち目となったテレビ俳優リック・ダルトンと彼のスタントマンで親友のクリフ・ブースという架空の人物を軸に物語が進んでいきますが、劇中ではテートやマンソン・ファミリーを率いたカルト指導者チャールズ・マンソン、テートの夫で映画監督のロマン・ポランスキー監督ら事件の当事者たちも登場しています。日本では8月30日公開ですが、一足先にテート殺害事件の実行犯マンソンとそのファミリーの女性たちに焦点を当てた映画「チャーリー・セズ/マンソンの女たち」が31日に日本で公開されます。

事件から50年が経った今も全米を震撼させた米国史に残る猟奇殺人事件として人々の心に記憶されていますが、ノンフィクションドラマ「チャーリー・セズ」が5月に全米公開されたのに続いてクエンティン・タランティーノ監督がメガホンを取った「ワンス・アポン・-」が公開されたことで、テート殺害事件とマンソン・ファミリーが再び注目を集めています。ベトナムの反戦運動とヒッピー文化の全盛期だった60年代に家出した少女たちを集めて「ファミリー」と称して集団生活を始め、残忍な殺人を計画して実行を命じたマンソンとテート殺害事件とは一体どのようなものだったのでしょうか。

「ワンス・アポン・-」ではマーゴット・ロビーが演じているテートは、妊娠8カ月だった1969年8月9日、自宅で友人4人と共に惨殺されました。当時、夫のポランスキー監督は欧州で撮影中だったため不在で、自宅に友人を招いてパーティーをしていた時に襲われた惨事でした。この事件の実行犯として後に逮捕されたのが、カルト集団マンソン・ファミリーを率いたマンソンでした。幼少期から犯罪を繰り返して10代の多くを獄中で過ごしたマンソンが、刑務所から久々に出所した時、世間はヒッピーブームに沸いていました。そのブームに便乗して家出少女たちを薬物とセックスで洗脳して虜にしたマンソンは、集団生活をスタートさせます。そんなある日、ビートルズの楽曲「ヘルタースケルター」を聴いたマンソンは、黒人と白人の間で最終戦争「ハルマゲドン」が起きる予言だと主張してファミリーを信じ込ませ、無差別殺人へと導いていくのです。

テートは妊娠していた腹部を滅多刺しにされて亡くなりましたが、マンソンの本当の狙いは殺害現場となった自宅の前の住人だった音楽プロデューサーのテリー・メルチャーで、テートはたまたまそこに住んでいただけでした。マンソンは本気で歌手デビューを目指していた時期があり、親交のあったビーチボーイズのデニス・ウィルソンからメルチャーを紹介されてデビューできると喜んだものの、後にデビューを断られたことを逆恨みして殺害を指示。3人の実行犯は何も知らずにたまたま通りかかった男性と自宅にいた、まったく関係のないテートと友人3人を次々に殺害するに至ったのです。実行犯とマンソンは逮捕されて死刑が宣告されましたが、カリフォルニア州で死刑制度が廃止されたことを受けて無期懲役に減刑され、2017年11月に刑務所から緊急入院したベーカーズフィールドの病院でマンソンは83歳で死去しました。

タランティーノ監督の「ワンス・アポン・-」では、この運命の8月9日にキャストそれぞれの人生を巻き込んで起きた意外な結末が用意されていますが、「チャーリー・セズ」ではこの時代や事件の背景を詳しく知ることができます。豪華キャストでタランティーノ監督らしいオタク心があちらこちらに垣間見える「ワンス・アポン・-」と衝撃の実話を実行犯だった3人の女性たちに焦点を当てて描く「チャーリー・セズ」という全くジャンルの異なる2つの作品を通して、チャールズ・マンソンとマンソン・ファミリーの起こした事件を垣間見ることができます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)