人気講談師の神田松之丞(36)が来年2月、講談界の大名跡である「6代目神田伯山(はくざん)」を襲名して真打ちに昇進する。

先日、松之丞の師匠神田松鯉、落語芸術協会の春風亭昇太会長らが出席して会見が行われたが、新聞社だけでなく、雑誌やテレビ局も駆けつけ、いつもの芸協の真打ち昇進会見と比べて、取材陣の数は倍以上いただろう。独演会をすれば、チケットは即日完売の人気者だけに、注目度も高かった。

松之丞は「師匠が元気なうちに披露目ができるのはうれしい」。44年ぶりに復活する神田伯山については「あこがれで、神様みたいな名前。5代目までの偉大さを伝える宣伝部長も僕の役割かな。歴代の伯山の資料を集め、代々の命日にお墓参りや奉納講談なども考えたい」。

今年は「700席の高座をやって、クタクタでした。もうキャパを超えていた。くたびれて、イライラしたこともあった。来年はもう少し余裕を持ってやりたい」。そんな松之丞に、若い頃、講談師を辞める危機もあった。「入門した時、師匠に『絶対、辞めるな』と言われた。前座修行が向いてなくて、一生懸命やってんですけど、ダメなんです。1年目か2年目の時、辞めようかなと思ったことがある。辞めて名古屋の落語家になろうかなと思ったこともあるんですが、その時に師匠の顔がちらついた。『絶対、辞めるな』の言葉が響いて頑張ろうと。今後、僕がスキャンダルを起こしても、それを思い起こそうと思っています。どんなにお客さんが減ってもね」と笑わせた。

毒舌で鳴らす松之丞だが、松鯉は、入門時のエピソードを披露した。「喫茶店で会ったんですが、最初にこの人、一番正面のところにドーンと座った。私は入り口の席のところに座らざるを得なかった。この子は弟子になるから、ちゃんと教育した方がいいと思って、『そこは一番高い席だから、私が座る席。初対面で、端っこにこぢんまりと座るのがいいんだよ』と言った覚えがある」。それを聞いた、昇太はすかさず「バカだったんですね」と突っ込んだ。

昇太も、入門時に松之丞を見て、こんなに売れるとは思わなかったという。「顔を見て、『この人は売れないな』と思った。こんなにパッとしてない顔の人が、テレビに出てるのはおかしい! だから、松之丞くんがテレビに出ていると、おかしくてしょうがない。周りの人がみんな華やかな顔をしていて、彼だけがこういう顔をしている。だけど、パッとした人ばかりの中で、こういう人が逆に光っているのがいい。彼には腕があるので、バラエティー番組のトークもいけるし、講釈も間違いない。新しいお客さんをつかんで、講釈や寄席の世界に引っ張ってもらっているというのは、協会としても宝だし、ありがたい」と、松之丞への見方が180度変わった。

披露興行は2月中席(11~20日)の新宿末広亭を皮切りに、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場と続くが、そのほかに大きなイベントも計画しているという。「今、ここでは言えませんが、何かやろうと思っています」。松之丞のサプライズに期待したい。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)