日曜日のヒーロー&ヒロイン

松本穂香 役が体に入り込む変幻自在の演技力

注目を集めたドラマ「この世界の片隅に」での、おっとりとした世間知らずのヒロインの印象が強い。女優松本穂香(22)。初主演映画「おいしい家族」(20日公開)では一転、ちょっとかたくなな現代女性を演じている。今作を皮切りに来秋公開まで主演映画が4本続く。外見にだまされてはいけない。演技の振れ幅と芯の強さはなかなかのものだ。

映画「おいしい家族」で主演を務めた松本穂香。初めての撮影でしたが、以前どこかでお会いしたような…。そんな感じにさせてくれる素敵な女優さんでした(撮影・小沢裕)
映画「おいしい家族」で主演を務めた松本穂香。初めての撮影でしたが、以前どこかでお会いしたような…。そんな感じにさせてくれる素敵な女優さんでした(撮影・小沢裕)

★対極

ほわんとした外見からは想像できない集中力がある。初主演映画のヒロイン像は、脚本を一読しただけで頭の中にイメージができあがった。

「すごく面白い(脚)本で、1ページ、2ページ…気付けば、あっという間に読み終えていました。今思うと、不思議とすーっと自分の体の中に(ヒロインのイメージが)入っていましたね」

「おいしい家族」の役柄は、銀座の化粧品売り場で働くしっかり者の女性。「この世界の片隅に」の主人公とは対極と言っていい。

「自分自身、どっち(の要素)も持っていると思います。確かにボーッとしているときもあるし、もちろんそうじゃないときも。今回は自分が家族の中にいるときのイメージに近いです。何だかんだ言ってもどこか甘えてしまう感じですかねえ」

決して背伸びしているわけではない。脚本の中身を実体験に当てはめながら、彼女ならではの登場人物像を作りあげているようだ。

映画では、母の三回忌で帰郷したヒロインが、母の服を着た父(板尾創路)と対面。実家には見知らぬ中年男性(浜野謙太)と女子高生(モトーラ世理奈)が同居していた。演技をする上でかなり難しいシチュエーションに思える。

「あー確かにそうなんですけど、周りの方(のキャラクター)がかなり濃い分、私の方はただそれを受ければいいだけといいますか、そういう感じでしたね」

故郷のシーンは設定そのままに離島ロケで1週間の撮影だった。女装の父親をもはや当たり前のように受け止めている島の人たちの中で、違和感が拭えないヒロインは孤立していく。

「島に入ってからはあんまり周りの人と話したりはしませんでしたね。孤立している役なので。意識していたというよりは自然に、というか、周りの皆さんも考えてくださったような気もしますし」

★笑顔

一方、すでに撮影が始まった次の主演映画「みをつくし料理帖」(角川春樹監督、来秋公開)の現場では、対照的にベテラン俳優たちと和気あいあいの笑顔を見せる。

今回の離島ロケでは「携帯(電話)を持っていくのを忘れてしまいました」。1週間、スマホなしの生活は22歳の女性にとってかなりきついはずだ。これも「孤独」の役作りなのでは? 「違います。単純に忘れてしまったんです」と笑う。撮影の随所で楽しみも見いだしていた。

「監督のアドリブ的演出が面白かった。急に『ここででんぐり返しして』とか、犬との絡みのシーンでいつまでもカットをかけなかったり。監督が楽しんでやっていると毎日感じていたので、そこはこちらも楽しんでやれましたね」

突然の演出プラン変更にも、慌てるどころか楽しむところがある。演出側にとっては頼もしい存在に違いない。

★地味

高校に入った頃は「授業中も発言する方じゃないし、ずっと教室の端にいるような暗い性格で、地味な存在でした」。演劇部に入ってから変わった。

「軽音部か演劇部かで悩んだんですが、演劇部は変わった人ばかりで、アニメオタクとかサバゲー好きとか。そういう中にいると、自分も何したっていいし、楽じゃないですか。自分が好きなものを恥ずかしいと思わずに言える。そういう中で、いつの間にか切磋琢磨(せっさたくま)していったんだと思います」

部員同士で選び合う互選オーディションでは主役に選ばれたり、脇役だったり。部員が書き下ろすオリジナル作品ばかりだった。

「高校生だし、アニメ好きが多かったので、魔法が使えたり、ファンタジーものがほとんどでしたね。記憶に残っている役は『マグちゃん』。マグロの女の子です。築地から逃げてきた冷凍マグロが主役のお話です。かぶり物をして、女の子なのでリボンを付けて。それがとても受けて、校内を歩いても『あっ、魚の子だ』って言われたりしました。クラスでは目立つ子じゃなかったけど、舞台では振り切って自分が出せるというか、そういう感覚がうれしかったんです」

そんな高2の頃、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」が放送されていた。女優に進路を切るきっかけになった。

「すごいはまりました。(放送時間が)15分なのに泣いて笑って…。タイミングなんですよね。進路を決めなくちゃいけない時期だったし、普通のお仕事は向いてないなってずっと思っていましたから。けっこう飽きっぽかったりするので、生活のサイクルに変化がなかったら続かないなと思って、何かしらちょっと違ったお仕事をしたいな、という考えがずっと自分の中にありました」

★天性

大阪の高校在学中に現在の芸能事務所に所属。新幹線で東京まで行ってオーディションを受けては落ちてそのまま帰阪するという生活が続いた。

16年にフジテレビ系月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」で、事務所の先輩、有村架純演じるヒロインの勤務先の同僚役を射止め、NHKテレビ小説「ひよっこ」への出演が続いた。

「(この3年で)自分の何かが変わったという自覚はないんです。1つの役を長く演じた『ひよっこ』は大きいですけど、きっと、ちょこっ、ちょこっとは変わってきているんでしょうね。今回はちょっとできたかな、とは思うことはあるんですけど、それはホントに少しのことで、ちょこっとずつ前に進んでいる感じです」

「この世界の片隅に」のヒロインは、3000人が参加したオーディションを勝ち抜いた。

「自分がやるんだと思いこんでいたというか、あの役として(成りきって)受けましたね。その役に合ってるか合っていないかで選ばれるわけですから、きっとあの役に合っていたんだと」

そっけなく言うが、時代劇の次回作「みをつくし料理帖」の角川監督も「ヅラ合わせの時に、まさにそこに澪(ヒロイン名)がいた」と振り返っている。「マグちゃん」の昔から、この人にはすっと役柄のスイッチが入る天性の勘があるようだ。

これらの作品を合わせ、4本の主演映画が来秋に向けて順次公開される。

「自分では分からないんですけど、人と人のつながりは感じています。ふくだ監督も『ひよっこ』を見てくださっていたみたいだし、角川監督も『この世界の片隅に』を見てくださっていた。1つ1つがつながっていくんだということを実感しています。毎回楽しんでやらせてもらってます。お休みのときも映画を見ることが多いし、それも楽しい。楽しむことでちょっとずつ成長していけるんだと思っています」

▼ふくだももこ監督(28)

同世代の女優さんの中にはいないタイプの顔、たたずまいも独特です。きれいだし、かわいいけど、そのどっちかといわれるとどっちとも言えない。外見からは分かりませんが、芯がしっかりしていて話す前から役に対するイメージが私とピタリ一致していました。理解力がすごいんです。家族から疎外されている役だからか、撮影の合間も共演者から距離を取るようにしていたし、離島ロケで「携帯忘れちゃいました」と言ってましたけど、私は役作りのために置いてきたんだと思っています。

◆松本穂香(まつもと・ほのか)

1997年(平9)2月5日、大阪生まれ。中学ではバレーボール部、高校で演劇部所属。15年、短編映画「MY NAME」でデビュー。17年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」に出演。18年、TBS系連続ドラマ「この世界の片隅に」のヒロインとして注目される。ロックバンド、キュウソネコカミのファン。

◆おいしい家族

ふくだももこ監督が自らの短編映画「父の結婚」を長編化した。母親の三回忌で故郷の離島に帰った女性が、母親の服を着て見知らぬ中年男と暮らす父と対面。普通じゃない状況で進行する異色のホームドラマ。板尾創路、浜野謙太らが出演。

【相原斎】(2019年9月15日本紙掲載)

 
 

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