戦隊ものの熱い男からクールなイケメン、不良でさえもスマートに演じる。NHK連続テレビ小説「なつぞら」ではヒロインの幼なじみ役を演じた俳優山田裕貴(29)。主演舞台「終わりのない」(29日から、世田谷パブリックシアター)では古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を原典としたSF作品に挑戦。役者としてさらなる高みを目指すストイックな素顔に迫った。

★野球で挫折

クールな印象だが、明るく人懐っこい笑顔が取材現場を和ませる。舞台「終わりのない」は3年ぶりに舞台出演となる。同作は山田があこがれてきた気鋭の劇作家で演出家、前川知大氏が脚本・演出を務める作品だ。力が入っている。

「人間の孤独だったり、ノスタルジーとかそういう感覚を表現している作品です。人間の、心の動きの中でSFを表現している感じですね。SFとか好きなのですけど、演じていて『あぁ、分かった』と役と同じ気持ちを持ったんです。気持ちの流れでやっていったらセリフでやっているのと同じ感覚になって、僕は初めて演じた時、泣いてしまいました。自分が出ているからではなく、みないと損な作品だと思います」

父は現役時代、プロ野球中日や広島で活躍した山田和利氏(現広島コーチ)。中学生までは父の背中を追い野球少年だった。そこでの挫折が現在につながる。

「僕は足が速かったのですけど非力だった。中学生までリトルリーグでやっていて、最初のチームで全国大会に出たのですけど、1回戦でボロ負けしました。もっと強いチームに行こうと思っていったら、レギュラーになれない。そこで諦めたんです。父親がプロ野球選手でも、無理だと。父からは『やりたいことをやれ』と言われました。ただ、『やると言ったことを最後まで続けなかった』と、めちゃくちゃ怒られました」

俳優になるきっかけも父との関係が大いに関係してた。

「子どものころ、父親に野球を教えてもらったことはありませんでした。僕も恥ずかしさや、父から教えてもらったからうまくなったと言われるのも嫌だったので野球の話もしたことがありませんでした。でも、後から気付いたのですが、父は、プロ野球選手はアマチュアに野球を教えられないという決まりを家族の僕にまで守っていたんです。だから、会話といえばテレビとか映画の話だったんです。そこで、何となく芸能界に目が向いていったというのもあるんです」

そんな父は俳優・山田の一番のファンだという。

「僕の作品をすごくみてくれているんです。それで、メチャクチャダメ出ししてきます。『ちょっと力みすぎ』とか。うれしいけど、うるさいです。(日刊スポーツの紙面を)読むかもしれないので、そう書いておいてください(笑い)。でも、舞台を見に来てくれたことないので、今回の舞台は来てもらいたいです。待ってます!(笑い)」

★お芝居せず

高校卒業後、俳優になるため所属する大手芸能事務所ワタナベエンターテイメントが運営する養成学校に入った。

「高校3年になり、大学受験となった時、人と同じ人生を歩みたくないと思っていたので、そこで考えました。最初、お笑い芸人さんになりたかったのですけど、そこまで面白くないし。歌も好きなので歌手はと考え、そこまでうまくないし。そこで、『俳優だ』と思って養成所の俳優コースに入りました」

養成所を卒業後の10年、同事務所のオーディションで急きょ設定された「D-BOYS部門」のグランプリを獲得し芸能界入りした。翌11年、テレビ朝日系ドラマ「海賊戦隊ゴーカイジャー」のゴーカイブルーで俳優デビューを果たす。

「お芝居にしないというのをポリシーにやっているのですが、その時からなんです。戦隊ものでデビューすると、芝居が大きいとか、戦隊芝居と言われがちなんです。戦隊が嫌なのではなく、そう言われるのが嫌だったのです。そう言われないように『大きなお芝居でなく、小さな表現で大きなものを届けよう』と思って、何回も見直して研究しながら毎日やってきた感じですね。カメレオン俳優とよく言われますが、お芝居ではなく『本物を生きる』ってことを心がけているからなのかもしれません」

同世代の若手のライバル俳優が多く、デビュー当時、思うように仕事に恵まれない時期もあった。「どんどん自分が小さくなってしまって。戻りたくない過去です」と振り返る。15年の人気少女漫画が原作の映画「ストロボ・エッジ」への出演が意識を変えるきっかけとなった。

「役が人気キャラだったんです。(自分が)全然知られていない時なので、『誰がやるんだ』みたいな話になって『山田裕貴って誰だ』『嫌だ』『きもい』みたいに話題になって。そこで、『見ておけよ。全国の女子高生』みたいな気持ちになって。1カ月半くらいで13キロくらい体重を落として、役のプロフィルに近くして髪も染めて。でも、ロケに行くと『誰?』みたくなって。毎日泣きたくなるくらい悔しい思いをしました。でも、純粋に芝居が楽しかったんです。そこで、お芝居がうまい人になりたいと思うようになったんです。共演した福士蒼汰と有村架純ちゃんと出会い仲良くなって。今でも3人で会うくらいですから。良い作品と良い仲間に出会えました」

★幅広い役柄

17年は13本の映画に出演、その後も多くの映画やドラマに出演している。今年はNHK連続テレビ小説「なつぞら」にも出演した。幅広い役柄をこなすことから、業界では“カメレオン俳優”との評価も聞かれる。

「今でも普通に電車に乗れるし、立ち飲み屋さんに行ったりします。朝ドラに出ている時もバスで通っていて、声を掛けられるのかなと思ったのですけど1回も声を掛けられなくて。カメレオン俳優というよりもカメレオンなんです(笑い)。役に入ると、普段の僕とは全然違うので。良い意味で作品にとけ込むことができているのかな。このままとけ込み続けたいです」

休日もほとんどないほど充実している。ここから先、どこに向かうのか。

「このペースで80歳くらいまでやっていけたら、すごい俳優になってるんだろうなって。死んだ時、ニュース速報が出るような俳優になりたいんです。それで、遺影で『イェーイ』ってやっているようなおじいちゃんになりたいです。みんな泣いてくれていて。それぐらい愛され、愛せる人になりたいですね」【上岡豊】

▼舞台「終わりのない」で共演する俳優安井順平(45)

稀有(けう)な役者だと思う。いい意味でばか。正直。真っすぐ。素直。熱い。負けず嫌い。本気で世界変えようとしてる。漫画とゲームが好き。まるで子供だ。これが裕貴の魅力。裏がない。欲がない。こだわりも持たない。あるのかも知れんが表に出ない。彼は今きっと旬の人である。でも本人は旬の自覚もなく相変わらずばかである。昔も今も、未来もきっと裕貴は変わらずにそこにいるだろう。そんな裕貴が大好きだとここに告白する。

◆山田裕貴(やまだ・ゆうき)

1990年(平2)9月18日、愛知県生まれ。11年テレビ朝日系「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビュー。映画「青空エール」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」など話題映画に出演。17年には公開映画13本、ドラマ6本、18年は映画7本、ドラマ3本に出演し、現在は「HiGH&LOW THE WORST」が公開中。178センチ。血液型O。

◆終わりのない

古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を原典としたSF作品。劇作家・演出家の前川知大が手掛け、古代と未来がつながり「人類」について考察するような、歴史、神話、宇宙が描き出される。他に安井順平(45)仲村トオル(54)らが出演。

(2019年10月27日本紙掲載)