コロナ禍で半年遅れ、来年元日に退団公演開幕を控える雪組トップ望海風斗。「『fff-フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~」「シルクロード~盗賊と宝石~」は、雪組2年連続の本拠地正月公演になった。今年の締め、新年の抱負には「成し遂げる」をあげた。兵庫・宝塚大劇場は来年1月1日~2月8日、東京宝塚劇場は2月26日~4月11日。あこがれ続けた男役道を完遂して来春、入団19年目で退く。

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本拠地に別れを告げる来年2月、退団会見からちょうど1年になる。

「お稽古も、ひとつひとつのことが、これが最後なんだなと。(延期の)期間に振り返ることができ、寂しいよりも今までいろんな経験をさせてもらったこと、今(稽古)出来ることが幸せだな-と」

来春で19年目。小学時代からあこがれた宝塚で、最後の役はベートーベンだ。

「あまり最後と思わずにやりたいし、男役として挑戦し続けたい。新たな挑戦の扉を1枚、用意していただけた。強い気持ちで」

比類なき歌唱力を誇る望海。天才音楽家のイメージは「皆さんもそうでしょうけれど、気難しいという感じ(笑い)。笑っているよりも怒っていたり、苦悩していることの方が多いんじゃないか」と笑う。

相手役の真彩希帆も同時退団する。代表作「ファントム」で見せたトップコンビの圧巻の歌唱はファンはもちろん、宝塚の歴史に残るものになった。

「(コンビで)最後の作品になるので、思いがこみ上げることもあるとは思いますが、この作品の中で、いい感情の流れになったらいいなと思います」

今回、真彩は「謎の女」。関係性にも深みがある。

「見終わったあとに、ふに落ちていただきたい。人として、自分自身と向き合う大切さを。(トップ)3年余り、経験させてもらって、1人ではなくコンビだから感じたこともある。それがすべて集約されているような関係性です」

ベートーベンに例えて言えば、宝塚との出合いこそが「運命」だった。小学時代に、涼風真世の退団公演「グランドホテル」を東京宝塚劇場で見て、心の中で「ジャジャジャジャーン」と音楽が響いたという。

「(舞台の)回転扉から次々に麗しい方々が出てくる。こんな人たち、世の中に存在するんだ! と衝撃で。天海祐希さんが出てきてノックアウト(笑い)」

もはや「ここ以外の世界」は考えられず、宝塚音楽学校を受験して合格した。

「よくその勢いのままやってこられたな-と。ちょっとでも、おじけづいていたら入れなかったかも。あの時、一員になりたいと思った気持ちのままにきた」

花組から雪組へ移ってトップに、転機は組替え。「100周年の年に組替え。経験すべてがターニングポイントだった」。新たな組で新たな自分を発見した。

コロナ禍、ファンと接する機会は激減、あらためて「見えない絆」も感じ、舞台を通して恩返しを誓う。次期トップは雪組育ちの彩風咲奈に決まった。

「サキちゃん(彩風)がトップになって、下級生として雪組にいてみたいなと思った。本人にしたら、すごい迷惑だと思うんですけど(笑い)」

雪組を知る後輩は「ずっと支えてもらい、頼もしい存在」。それゆえ「雪組でトップになってどう芯(中心)としてやっていくんだろう」と思いをはせる。「サキさん! ついて行きますって! 思う」。先輩としては「今(2番手)の時期を楽しんで」と伝えた。

2021年。新たな年の幕が開ければ、男役人生の最終カーブに入る。

「21年の言葉は『成し遂げる』。(公演そのものが)幸せなこと。公演を成し遂げる強い思いを持って、同時に、宝塚人生も成し遂げるという思いを持って」

見事に成し遂げ、新たな人生の章へと進んでいく。【村上久美子】

ベートーベンを演じる芝居では、人柄よりも「どういう精神で、どういう魂をもって、音楽を生み出していったか」を表現する。

「私自身も奥深い、すべてそぎ落とした状態の中で出てくる感情を、シンプルにお客様にお届けするのが今回の課題。生み出す中で、愛情を感じています」

展開は、望海自身も驚いた。「台本をいただき、(演出の)上田先生の頭の中の想像力のすごさに言葉も出なかった」そうだ。

「もちろん怒り、魂の叫びから出てくる音楽もありますが。今まで演じた役が悲劇に走っていく役が多かったので、そうならないよう。温かいもの、未来への明るさを失わないように」

コメディーでも、ヒューマンでもなく「喜ぶ劇って書いて『喜劇』。そのイメージです」。オリジナル曲も交ぜ、ベートーベンの残した名曲も多数ある。コロナ禍に揺れる新年の幕開け作には、意義も感じる。

「この時代に寄り添うというより、人間の持つ強さを、私たちも台本、役からエネルギーをいただいていて新しい年を迎え、お客様とも、もう1度エネルギーを共有できたら」

ショーは「シルクロード」がテーマ。衣装も見どころのひとつだ。

「あまり経験のないアラビア系とか、コスチュームも楽しんでいただきたい。大まかなストーリーに沿って進み、場面ごとの小さなストーリーもあります」

半年遅れて迎える退団公演。待ってくれていたファンへの感謝も尽きない。

「(延期に)すごく心配してくださった。今(ファンに)直接、自分の気持ちを伝えられないことが、すごく心苦しい。でも、たいへんな世の中で、1歩ずつでも前進できることがありがたい。宝塚へ、応援してくださった方々へ、仲間への思いを再確認し、退団公演を迎えられて幸せです」

 サヨナラショーの構成は「マル秘です」と言い、笑った。現在は本編の仕上げに専心し「お楽しみにしていただけたら」と続けた。恒例サヨナラパレードの方向性も見えない。「思った形ではないかもしれません。今まで通り-とは、私も思っていません。でも、この時にしかできないこともある。精いっぱいのことを、いろんな方々が考えてくださっている。ファンの方も悲しまないでほしい。それが一番心配ですね」とメッセージを送った。

◆ミュージカル・シンフォニア「fff-フォルティッシッシモ-」~歓喜に歌え!~(作・演出=上田久美子) 主人公はベートーベン。失恋、孤独、失聴…不運に見舞われながらも、至上の喜びを歌う「第九」を完成させた。聴力を失った天才音楽家と、現れた「謎の女」との不思議な関係をまじえて描く。

◆レビュー・アラベスク「シルクロード~盗賊と宝石~」(作・演出=生田大和) 陸と海とで西欧とアジアを結びつけてきた「シルクロード」がテーマ。青いダイヤモンドを手にいれた盗賊は…。ストーリー仕立てで、宝石のきらめきの中に宿る“記憶”をたどる旅を、エキゾチシズムに表現する。CM、アニメ、映画音楽も手掛ける菅野よう子氏からの楽曲提供も。

☆望海風斗(のぞみ・ふうと)10月19日、横浜市生まれ。03年入団。花組配属。09年「太王四神記」で新人初主演。14年11月に雪組。17年7月に同トップ。「ファントム」は圧巻の歌唱力で好評を得た。今年の正月も本拠地公演が雪組で主演。身長169センチ。愛称「だいもん」「ふうと」「のぞ」。

半年遅れで開幕する退団公演への思いを語った雪組トップ望海風斗(撮影・村上久美子)
半年遅れで開幕する退団公演への思いを語った雪組トップ望海風斗(撮影・村上久美子)