17日に放送されたNHK朝ドラ「なつぞら」41話で、東京に行きたい本当の理由を打ち明けたヒロイン、なつ(広瀬すず)に、じいちゃんこと柴田泰樹(草刈正雄)が掛けた言葉です。

9歳の戦災孤児だったなつを引き取り、「それでこそ赤の他人じゃ」(2話)から始まった2人の関係。「わしの見習い」「わしの弟子」などと形を変えながら常に居場所を作ってくれていた頑固じじいが、万感の思いを込めて「わしの孫」と涙するシーンに、いい十勝編だったなあとしみじみ。「東京で漫画映画をやりたい」「じいちゃんが1人で北海道に来て開拓したみたいに、私も挑戦したい」というなつの決意に、「行ってこい。行って東京を耕してこい」と、開拓者らしい言葉でエールを送りました。

山の酪農家で、ヒゲで、寡黙な頑固者。「アルプスの少女ハイジ」の「おんじ」みたいな“泰樹おんじ”を、草刈正雄さんが本当に魅力的に演じてきたんですよね。「それでこそ赤の他人」も、異分子として肩身が狭いなつへの優しさが分かる、遠回しな名シーンでした。

「赤の他人」が「わしの弟子」になった4話も心に残ります。なつを帯広に連れて行き、自分たちが絞った牛乳でできたアイスクリームを食べさせ、むすっと「そのアイスクリームはお前の力で得たものだ」。ご褒美ではなく、労働の対価として胸を張らせる哲学がかっこいいんですよね。「人は人を当てにする者を助けたりはしない」という人生訓や「お前ならもう大丈夫だ」「お前は堂々とここで生きろ」という揺るぎない愛情など、広々とした人物像を生き生きと見せてくれました。

じいちゃんのイズムはあらゆる受け手に刺さっているようで、今月行われたNHKの定例会見では、上田良一会長もその魅力に言及。朝ドラ好調の要因に関する答弁の中で「4話のアイスクリームも良かったが、それに限らないんですよ。草刈正雄さんが本当に素晴らしい演技で、体全体から出てくる表現力は『なつぞら』の感動の大きなひとつの要素です」と熱く語りました。

大河ドラマ「真田丸」(16年)の真田昌幸役のずぶとい武将っぷりといい、今回の“泰樹おんじ”ぶりといい、会長の言う「体全体から出てくる表現力」という草刈評に納得です。昭和世代にとっては、二枚目俳優の代名詞みたいな人。逆に言えば、永遠の二枚目枠みたいな印象もあっただけに、こうしていろいろなタイプの人生のベテランを表現でき、60を超えても売れっ子という無双ぶりは痛快です。年輪を重ねるほどキャリアがカラフルというのもかっこいいところです。

今週から、アニメーターを目指して上京するなつの「東京・新宿編」がスタート。草刈さん本人のイベント談によれば、じいちゃんは長生きするようなので、また会えると思います。直伝の開拓者魂を受けついだヒロインが東京でどんな冒険をするのか、新宿編も楽しみです。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)