9月にハワイで休暇を過ごしました。到着早々、ホテルのプールで見た光景が、強く印象に残りました。義足ユーザーが義足をプールサイドにポンと置いたまま、泳いでいたのです。近くで水着姿の高齢の女性がカートを押しながら歩いています。車いすに乗った高齢の男性は、妻とプールの縁に座り談笑しています。周囲の人が特に関心を示すこともありません。ここでは当たり前の日常の風景なのだとあらためて思いました。

日本ではいろんな所で細かい決まり事があり、障がい者や高齢者は入場を断られたり「危ないですから」と行動を制限されることも珍しくありません。一方、米国はルールも必要最低限で、多様な人々がそれぞれのスタイルで生活することを尊重してくれます。不思議なことにここでは私もショートパンツ姿で、義足を出して街を歩きます。ありのままの自分を取り戻すことができるのです。

数年前、ロサンゼルスのディズニーランドに行ったときに、足に障害のある人が優先して使える駐車場の広さに驚きました。入り口に一番近い場所に100台以上駐車できる広大なスペースです。米国では90年に障がい者差別を禁じる法律ADAが成立して以来、あらゆるアクセシビリティーが整備され、今では義足や車いすを使っている人、高齢者がいる風景は、ごく普通になりました。だから施設と心のバリアフリーが両面で実現しています。

休暇の最終日、私はプールでウオータースライダーに挑戦しました。義足を外して約30段の階段を、夫の手を借りて一段ずつ上りました。日本なら「危ない」と周囲はネガティブな反応をするでしょう。ところがここの監視員は「素晴らしいトライだ。手伝うよ」。周りの人たちも私の挑戦を笑顔で見ていました。おおらかな気持ちで、自己決定を応援してくれる。私も心から楽しめました。

セキュリティーや管理責任の問題もありますが、最近の日本はルールが厳格化しすぎて、融通が利かない窮屈な社会になっているような気がします。20年東京大会は世界中から多様な人々が来ます。もちろん安全第一ですが「楽しんでもらう」という気持ちを常に忘れずに接することが大切です。複雑に考えずに柔軟に、時に臨機応変に、まずは楽しく。ハワイでの数日間は、そんな当たり前だけど忘れかけていたことを気づかせてくれました。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。46歳。