5月30日午後11時18分、選手やファンが集った夜更けのオンラインミーティング。目標額の1000万円に到達した瞬間、パソコンやスマホのスピーカーに歓喜の拍手が鳴り響いた。バスケットボールのB2香川ファイブアローズで、「チーム存続の危機」を乗り越えるために行われたクラウドファンディング企画。ミーティングの司会を務めた同クラブ営業部主任の藤井直樹さん(25)は、「予想以上に多くの人たちから、香川ファイブアローズのことを気に掛けていただいた」。言葉に実感がこもった。

秋から春にかけてがシーズンとなるバスケットボールは、国内プロスポーツ競技の中でも真っ先に新型コロナウイルスの影響を受けた。中断から無観客開催での再開を経て再び中止となり、シーズン打ち切りが決定。Bリーグ加入4年目にして初のプレーオフ進出、さらにはB1昇格の可能性さえ感じさせる快進撃を続けてきた香川だが、一転して激しい逆風にさらされることになった。

歴史の浅いBリーグは他のプロスポーツに比べて財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)なクラブが多い。下部にあたるB2で、地方都市に本拠地を置くチームはなおさらその傾向が強い。収益が減少し、スポンサー契約の先行きも見通せない状況の中、香川が活路を求めたのがクラウドファンディングによる資金調達。「誰かが発案したのではなく、全員が集まるミーティングで自然とそうなった」(藤井さん)。告知文では、クラブの苦しい懐事情を包み隠さず明かした。

企画は4月中旬にスタート。早々に全国放送のニュース番組で取り上げられたこともあってまずは順調に支援が集まった。開始から約10日が経過した時点で、早くも目標額の半分近くにあたる470万円に。しかしその後は徐々に、数字の伸びに勢いがなくなった。「停滞時期は必ずくる。心構えは出来ていて想定していた。そこをどう乗り越えるかが大事だと思っていた」(藤井さん)

プレーオフでの着用を予定していた幻の第3ユニホームのレプリカや、漫画『スラムダンク』を手掛けた井上雄彦氏による限定Tシャツなど、希少アイテムを返礼品に次々追加。クラブによる情報発信では伝達範囲に限りがあると考え、SNSを通じた情報拡散の協力も仰いだ。

それでも企画終了時刻まで12時間を切った時点で、目標額まで残り約150万円。直前の1週間ほどは1日あたり20万円前後で推移していた日が多く、「あきらめていたわけではないけれど、目標達成に向けて簡単ではない金額とも思っていた」(藤井さん)。歓喜のフィニッシュは困難かとも思われたが、そこから驚異的な“ラストスパート”が繰り出された。賛同者たちの呼びかけもあり、最後の1日だけで186万円余もの支援金が集まったのだ。オンラインミーティング会場だけでなく、SNSにもファンの喜びと安堵(あんど)の声があふれた。

約1カ月半で806人から寄せられた支援総額は1028万7000円。これらは来季のクラブ運営費として大切に、そして有効に活用される。藤井さんは、「香川県にスポーツチームが存在する意味をあらためて感じた。応援してくださった皆さんに、今度は還元していきたい」。ブースターへの最大の“返礼品”は、アリーナのファンに最高の笑顔を届けることだ。【奥岡幹浩】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「WeLoveSports」)