トリプルアクセルに4回転-。高難度ジャンプの魅力は言うまでもないが、フィギュアスケート取材を通じて実感することがある。

1つの作品を完成させるために欠かせないジャンプの存在価値だ。一見“脇役”のようにも捉えられるが、曲と融和し、基礎点という数字では評価しきれないジャンプ。個人的にはその1つが、18年平昌五輪で6位入賞を飾った坂本花織(20=シスメックス)の3回転ループだと思っている。

10月17日に行われた全兵庫選手権のショートプログラム(SP)後、ようやくその存在について聞くことができた。

「あのループ、何と呼んでいますか?」

そう聞いてみると、坂本は満面の笑みで答えた。

「くるくるループです!」

その名の通り、跳び上がる前に氷上で2回転ほどクルクルと滑る。昨季から使用するフリー「マトリックス」では盛り上がったクライマックス。しっとりとした新ショートプログラム(SP)「バッハ・ア・ラ・ジャズ」でも、最後のジャンプに用い、曲調の変化へのアクセントになっている。初の全日本女王に輝いた18-19年のフリー「ピアノ・レッスン」でも「くるくるループ」はジャンプの大トリだった。なぜなのか。

「ブノワ先生が、何も言わずに最後に持ってくるスタイルで、勝手に最後になっています(笑い)」

「ブノワ先生」とはフランス人男性で、振付師のブノワ・リショー氏(32)。18年平昌五輪シーズンのSP「月光」、フリー「アメリ」から毎年、振り付けを依頼してきた。

「たぶん曲のタイミングとかもあると思うんで、コースとか、振り付けの中で(プログラムと)ハマるジャンプを組み合わせたら、その構成にいつもなるのかな? それか、わざと曲を、そう編集しているか…」

坂本の見解は推測の域を出ない。その言葉通り、リショー氏に全幅の信頼を寄せて滑り込み、シーズンごとに表現の幅を広げてきた。ループは右足のエッジ(刃の氷と接する部分)で踏み切るジャンプ。得点源の3回転フリップなどは、つま先を使って踏み切る「トー系ジャンプ」に分類され、「エッジ系」のループは元々、得意ではなかった。

「昔からエッジジャンプが基本苦手で、サルコーとか、ループとか、しょっちゅう(回転が)抜けたりして、あんまりいい印象がなかったです。今のループは小6で跳べるようになって、試合で点数が出始めたら『意外と認められているな』って。『好きになった』っていうより『普通になった』っていう感じです…」

それでもコーチやリショー氏らに引き出され、練習を繰り返した「くるくるループ」は代名詞になった。フリーは4分前後のプログラムで、7つのジャンプを組み込む必要がある。選手は作品に表情までとけ込ませるため、見る者に疲労を感じさせないが、実際は体力との戦いだ。終盤の「くるくるループ」は、その点でも利点があるという。坂本は笑いながら明かした。

「フリップやアクセルを演技の後半に持っていくことが多くて、だんだん(負荷のかかる)左足がしんどくなるんですけれど、ループは右足だけで跳ぶので、しんどさの調和がとれるというか…。なんか均等に疲れるので、いい感じです」

「苦手」から習得後に「普通」になったというループ。今は、どうだろうか。

「加点は他の選手より付く自信があります。今は好きです!」

昨季の4大陸選手権フリーでは4回転トーループを組み込むなど、女子フィギュア界におけるジャンプの高難度化に食らいつく姿勢を見せてきた。新たな挑戦への期待と同様に、演技するごとに深みを増していくプログラム全体への興味は尽きない。

その過程で、今季も「くるくるループ」の存在価値を見逃せない。【松本航】


◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーが中心。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当し、19年ラグビーW杯日本大会も取材。

坂本花織(2020年10月3日撮影)
坂本花織(2020年10月3日撮影)