2人の五輪女王の争いは最終決戦に持ち越された。史上初のオリンピック(五輪)5連覇を目指す女子57キロ級の伊調馨(35=ALSOK)が、16年リオデジャネイロ五輪金メダルの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)との決勝に4-6で敗北。

重なる古傷の影響で万全でない中で奮闘したが、攻め込まれた。昨年末の全日本選手権に続く優勝での20年東京五輪予選の世界選手権(9月、カザフスタン)代表権獲得はならず、7月6日のプレーオフで川井と雌雄を決する。

同53キロ級の向田真優(21)、同68キロ級の土性沙羅(24)、男子グレコローマン60キロ級の文田健一郎(23)が代表に決まった。

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超満員の視線が注がれた試合開始直後、勝負の分かれ目があった。「最初に組み合った時の相手の圧力をすごく感じた」。川井梨のしっかりした構えに、伊調の気持ちが引けた。前日の準決勝後、勝利へのカギとして挙げた「前に出る勇気」が失われた。じりじり攻められ、消極性から失点して劣勢になった。

第2ピリオドの開始直後からは、川井梨の膝下をつかみにくるタックルに見舞われ後手に。残り2分20秒で2発目の餌食になると、素早く回転させられて4失点。「ひるまずに前に出れば展開は変わっていたかな」と敗北を認めた。

4月のアジア選手権で準決勝敗退後、試合で前歯を折った箇所が亜脱臼と診断。さらに古傷の首、肩、股関節も痛みだし、2週間ほどスパーリングができない時期もあった。「自信を持って上がれるかも練習量で、こなすには体が一番。けがしているとマットに上がれない日が続き、気持ちでも強くいられない日もある。そこが一番難しい」。加齢が現実を突きつける。

プレーオフまで3週間。前向きな要素は、0-5と追い込まれてからの反撃になる。川井梨の3本目のタックルは素早い切り返しでかわし、背後に回れた。「気持ちが前に出たからバックに回れた」。窮地のがむしゃらさが前半から出せるかどうか。

幼少期に「優勝してもマットを降りたら、もう王者じゃない」と諭されて育った。常に挑み、偉業を得てきた。それは今もぶれない。最後に言った。

「ギリギリの戦い。自分の体も気持ちもそう。そこを望んで戻ってきましたし、いかにやりがいと感じて楽しくやるか。純粋にレスリングを好きで戻ってきたので」。【阿部健吾】