日本のエース羽生結弦(26=ANA)が193・76点で今季最後の演技を締めくくった。今季3度目となるフリー曲「天と地と」の披露。水色を基調とした和の衣装で琵琶の音に乗り、有観客の会場から大きな拍手を浴びながら舞った。

その中で「羽生だからこそ」出たミスがあった。冒頭の4回転ループを華麗に決めた後の、2本目の「4回転サルコー」。これが1回転になるミスがあった。

「かなり慎重にいっていて、形も悪くなかったと思うんですが、不運というか…」。練習でも、ほとんどミスしていなかったジャンプだ。それを踏まえた上で続けた言葉はこうだった。

「自分が跳んだ穴に、思いっ切り入ってしまったので。自分自身、これはちょっと自分の性格上(演技の特性上)しょうがないと思うんですが、同じ所で跳べるんですよね。同じような穴に引っ掛かってしまう。本当にわずか、エッジの幅なんで、何センチぐらいだろ? そこにハマりました」

本人の記憶では、試合の前にある「6分間練習」の時に跳んだ時の溝。あまりにも滑りが正確なため、本番でも全く同じ位置で踏み切ろうとしてしまい、その溝にハマってバランスを崩した、と自ら説明した。

確かに、演技を終えた瞬間、悔しそうな表情で、いつも4回転サルコーを跳ぶ位置に向かって氷を触っていた。そこに、選手にしか分からない溝があったのだろう。

最後に言ったのは「自分の穴にハマらないようにするためには、ほかのところで跳べっていう話なんですが、ダメだったので。自分が信じる道、そこまで精密にできるのが強みだと思うので。9割とかじゃなく、100%、跳べるのが強みだと思いますし、昨日の4回転サルコー(ショートプログラムで14・16点を獲得)のようなジャンプにつながる。自分の強みを磨いていきたい」だった。

跳べていれば、得られた4回転サルコーの基礎点「9・70点」とプラスアルファの出来栄え点(GOE)が、1回転サルコーの「0・40点」だけになってしまった。先述の通り、前日は14・16点を獲得していた得意のジャンプだ。結果は1位のネーサン・チェン(米国)に「9・48点」及ばずの2位。勝負に「たられば」はなく、本人も一切、点差にも結果への影響にも言及していないが、フィギュアスケート競技の1つの現象として「同じ溝にハマる」という、プログラムを体に染み込ませているからこそ、五輪(オリンピック)2連覇の羽生だからこそ、の勝敗を分けたポイントがあった。【木下淳】