身長165センチのスーパーサブ、本橋菜子(27=東京羽田)が、決勝の舞台で躍動した。第1クオーター(Q)の残り3分から出場。いきなり3点シュートを決めるなど、流れを引き寄せた。これまでの1試合平均7分を大きく上回る18分43秒プレーし、チーム2位の16得点。「頑張ってきた自分を出し切りたいと思ってプレーした」と感極まった。

昨年11月の前十字靱帯(じんたい)を損傷。本番9カ月前、復帰は絶望かと思われたが「諦めない」と前を向いた。「本橋は必要」というホーバス監督の意向で、チームではなく代表のもとでリハビリ。順調に回復し、6月10日からの代表戦で復帰した。ポルトガル相手に3連勝で、全員が調子よく、目立ったアピールができなかった。

五輪初戦でも恐怖からか、シュートに向かうジャンプをためらうシーンが見られるなど全力プレーはできていなかった。所属の萩原美樹子HCも「バスケット感がつかめていない。全盛期の6割ぐらいしか動けていないのでは」と話す。それでも決勝ではドリブルで、平均身長183・8センチの米国の大きな壁にひるむことなく向かっていき、ゴールに迫った。ケガの前はチームでも代表でも先発だった。今大会はすべて途中出場。監督の指示を遂行し、ゲームをつなぐ役割は先発と全く違う。本橋は「チャンスを見逃さずに積極的に狙った」としっかり対応し、流れを引き寄せた。

昨年12月に靱帯(じんたい)断裂のケガを負った渡嘉敷とは、復帰を目指し、一緒に戦ってきた。出場がかなわなかった仲間を「同じ立場だった。タクさん(コートネーム)が1カ月遅くて間に合うことができなかったけど、すごく悔しい思いも分かるので、仲間の分も頑張ろうという思いが誰よりも強かった」。

8カ月間、孤独な中トレーニングを続けた。「ここまでの道のりは本当に苦しくて、何度も逃げ出したかった」。まじめな性格で、トレーナーが止めるまで練習をやめなかった。正月も休まずリハビリに通い、代表活動がオフになれば、チームに帰って後輩を指導。無理しないようにと言うコーチを制し「4日間もバスケットをしないとかあり得ない」と、コートに立った。

本橋のことを周りの誰もが「芯が強く、責任感がある」と話すが、試合後は一気に涙があふれ出た。「よくやったと、自分のことを少し褒めてあげたい」。背負ってきたものをようやく下ろし、苦労と努力で勝ち取った「重い」メダルを首にかけた。【松熊洋介】