ボクシング女子フェザー級の入江聖奈(20=日体大)が決勝進出を決めた。準決勝で英国選手に3-2で判定勝ち。12年ロンドン五輪から採用された女子で、日本勢初出場の元気娘が頂点に迫った。

 

ピョンと跳んだ。好きすぎてグッズを集め続けるカエルのように。「負けたかな…」と祈った採点発表。勝利が決まると、跳んだ。オタマジャクシがカエルになるようには、自分の変化に気づかなかった。「あんまり強くなってないんじゃないか」と不安もあった。この勝利で確信した。「カエルに近づいている」。

作戦名も「ツノガエル作戦」だった。幼少期から師事する伊田女子強化委員長が授けたのは「ドッシリと構えて、圧をかける」。その姿を獲物を丸のみする動物に見立てた。接近戦で強打を打ち込む19年世界選手権3位の強豪と、正面からにらみ合った。巧みによけてのカウンター。有効打になりやすいパンチを集め、僅差を制した。

小2で競技を始め、アイドルはボクサーだった。夏祭りの屋台のくじ引きで、嵐のうちわが当たると「具志堅用高が良かった」とむくれた。小4の授業参観で発表した好きな人は「勇利・アルバチャコフ」。小6で東京開催が決まった直後の大会で優勝しても、「五輪に出るから通過点なんだ」と言った。苦笑する周囲をよそに、本気だった。中1では鳥取県で唯一の女子登録選手になった。

その故郷ではいまだ五輪の金メダリストがいない。日本勢では64年東京の桜井孝雄、12年ロンドンの村田諒太に続く3つ目の金もかかる。もし3日の決勝を勝ったら…。「(カエルに)羽が生えちゃうかもしれないですね!」。弾んだ声で、空も飛べそうな未来を思い描いた。【阿部健吾】

◆入江聖奈(いりえ・せな)2000年(平12)1月9日、鳥取県米子市生まれ。小2から「シュガーナックルボクシングジム」に入門。米子西高からボクシングに専念し、3年時に全日本選手権優勝。日体大では柔道女子の阿部詩と同学年。164センチ。