全盲のアスリート、木村敬一(30=東京ガス)が悲願の金メダル獲得に向けてスタートを切った。過去3大会でメダル6個も、頂点には届かず。17年に金メダルだけを目標に渡米し、今大会は「金メダルをとるためだけ」に出場する。最有力な100メートルバタフライから逆算してエントリーは3種目。1種目目の男子200メートル個人メドレー(視覚障害SM11)は3位の富田宇宙(32)に遅れたが「金捕り」への自信は揺るがない。

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「そりゃ、2分29秒でメダルは無理ですね」。木村は苦笑いで言った。オランダのドルスマンが圧倒的な1位でライバルの富田も3位に入った。木村は5位に終わったが、悪びれた様子はない。「できればメダルと思った。ちょっと欲張り過ぎました」と笑った。

「金以外はいらない」と公言する。これまでのパラでは毎回5種目に出場してきたが、今回は3種目に絞った。この日の個人メドレーは、まず大会に慣れることが目的。さらに、最初の50メートルは金メダルを狙う100メートルバタフライを想定したもの。前半を「100メートルのつもり」で入ったから、後半は失速。「あのタイムで入れば当然ですね」と、想定済みだと明かした。

12年ロンドン大会でメダル2個をとった。「普通は子どもの時に猛練習する。メダルをとる前にアスリートになる。でも、僕はアスリートになる前にメダルとってしまった」と話す。金メダルを狙った16年リオ大会前は猛練習した。筋トレをこなし、泳ぎ込んだ。五輪選手並みのメニューをこなした。「やっとアスリートになれた。あれだけ練習しても、金メダルはとれなかった」。銀2、銅2。プールサイドで男泣きした。

東京大会を目指す決断は1年以上できなかった。目指すなら「絶対に金」。だが、練習に耐える自信もなかった。それでも「アスリートとして、どうしても金メダルがほしい」と17年末に覚悟を決めた。パラ金メダリストを多く育てたブライアン・レフラー・コーチに直訴し、教えを請うた。

「僕にとっての東京大会の目標は、金メダルをとることだけです」。木村ははっきりと言う。「泳ぐのは共生社会実現のためじゃない。金メダルをとるため。アスリートなんだから、当たり前ですよ」。強烈な目的意識と強い意志。木村の目は、9月3日、100メートルバタフライの金メダルしか見ていない。【荻島弘一】