陸上男子1500メートル(視覚障害T11)で、和田伸也(44=長瀬産業)が銀メダルを獲得した。4分5秒27のアジア新。男子5000メートル(視覚障害T11)の銅に続き、2個目のメダルとなった。

残り100メートルを切った。3番手から追走してきたロシア・パラリンピック委員会の選手の足音が大きくなる。序盤から積極的に前でレースを進めた44歳の足は「乳酸でバキバキ」と止まりそうになった。気持ちだけで前に回し続けた。和田は「死んでも先にゴールを駆け抜けよう」。0秒28差。競り勝った。銀メダルを死守。ゴールすると、座り込んだ。すぐに喜べないぐらい力を出し尽くしていた。

モチベーションが高まる出会いがあった。7月の北海道・千歳合宿。東京五輪女子1500メートル代表だった田中希実(21=豊田自動織機TC)と一緒だった。「頑張ってくださいね」。そう励まされた。後に田中は日本勢初出場となった1500メートルで8位入賞の偉業を成し遂げた。その姿に「よし! 4分(切り)」を目指そう。自然と気持ちが高まった。そこには届かなかったが、自己記録は0秒48縮め、立派なアジア新記録。「全部出し切りました」。子供のように声を弾ませた。

大阪府生まれ。生野高2年の時に網膜色素変性症と診断され、関大3年で視力を失った。運動不足解消のために20代後半で走り始めた。パラリンピックには初出場だった12年ロンドン大会で5000メートルで銅メダル。16年リオデジャネイロ大会は3種目で入賞止まり。課題だった足首の硬さを解消するメニューに取り組み、40歳を過ぎても、年齢に逆らうように進化を続けた。「44歳ですけど、そんな年になったのかと忘れるぐらい」と笑った。所属の長瀬産業が競技に専念させてくれたのも大きかった。「朝倉社長は命の恩人です」と感謝した。

東京大会を集大成と位置づける。「次のパラリンピックはないと思う。最後にいい締めくくりができてよかった」。44歳で2種目メダルも超人的だが、5日にはマラソンも走る。【上田悠太】