東京オリンピック(五輪)新種目のスケートボードで、四十住(よそずみ)さくら(19=ベンヌ)が、金メダルの有力候補に挙がる。23日まで米国で行われたデュー・ツアーのパーク女子で初優勝。代表選出は確実だ。五輪追加種目入りしたのは16年8月。夢中で競技に打ち込んだ中学生は、18年にジャカルタ・アジア大会、第1回世界選手権で優勝し世界との距離を縮めた。競技の魅力とともに、彼女の過去、現在、未来をひもとく。【取材・構成=松本航】

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■男の子がやるヤンキーのスポーツ■

導いてくれたのは大好きな人だった。今から8年前。小学6年だった四十住は地元の和歌山・岩出市で、ある悩みを抱えていた。

「スケボーやり始めたら、遊んでくれるんかな?」

自宅に13歳上の麗以八(れいや)さんがいた。構ってほしい一心で、兄が夢中だったボードをもらった。

「お兄ちゃんと、とにかく遊びたくて…。遊び道具としてもらって、やり始めました。楽しくなった時には、お兄ちゃんは違う遊びに変わっていましたが…」

スポーツが苦手だった少女は、一気にのめり込んだ。中学1年時に初めて出た大会で準優勝。「次は優勝したい」と本気になった。だが、両親は反対だった。

「男の子がやるヤンキーのスポーツで、あんまりイメージ良くないし、やめてほしかったみたい。『無理』っていう言葉を聞くために、毎日難しいメニューを紙に書いて渡されました」

めげずに取り組むと、遠征に連れて行ってくれた。

「『本気やな』って思ってくれたみたい。1本1万円のデッキ(板)は割れるから1カ月に2本とか必要で、靴も2足ぐらいはきつぶす。後から聞いたけれど、やり始めた頃、親はお金に困っていたみたいです」

■難しいことが、1週間後には余裕になる■

毎朝7時半から30分。中学への登校前、自宅前で練習するのが日課になった。

「楽しいから朝も滑る。カチャカチャやるから、お兄ちゃんに『うるさいからやめろ』と怒られました」

中学3年の夏、東京五輪追加種目入りが決定。だが「全然気にしていなかった。あんまり記憶にない」と振り返る。午前6時半に起床し、朝の練習を終えると学校へ。午後3時半に下校すると、再び自宅前で1時間練習する。塾で2時間勉強し、終わると大阪に向かった。1時間のレッスンで課題を設定。午後10時にパークが閉まると、府内で場所を移して日付が変わるまで乗った。母の運転で和歌山に戻り、また練習した。

「練習する公園の隣にお風呂があるから、最後はそこに入って(午前)2時ぐらいに帰って寝る。しんどくは…なかったかな。最初はペットボトルを跳び越えるのも難しかったけれど、難しいことが1週間後には余裕になる。結果が出るから、すごく楽しいんです」

1日5回の練習は、誰かに命じられたわけではない。

「普通に好きでやっていたし、成績もなかったから、五輪も気にならなかった。毎日、限界まで、楽しく練習していただけですね」

■五輪を目指していたわけじゃない■

五輪との距離は導かれるように縮まった。16、17年の全日本アマチュア選手権は、階段や手すりなど街中を模したコースを使う「ストリート」で優勝。その後、複数のボウルの中で技を出す「パーク」へ専念した。4年前のことだった。

「アール(湾曲の形状)が好きだったのと、パークは(体に)パッドをつけるのでケガをしにくい。五輪を目指していたわけじゃないけれど、出られる大会に出ていたら、こうなって…」

18年に初代世界女王となった一方、和歌山から神戸の練習場に通う生活は続いた。母清美さんが片道1時間半の運転。娘の本気度を確認して以降、身を粉にして支えてくれた。1915年(大4)に創業した地元、岩出市にある老舗酒造会社「吉村秀雄商店」。精米機を設置していた倉庫の無償提供を受け、秋には自宅から5分の場所に専用練習場「サクラパーク」が誕生した。

「コロナで神戸のパークが閉まって困っていました。1人で1本1本、確認しながら、1日7時間ぐらい滑っています。順番待ちもない。1人でも、家族だけでも、無理やった。みんなの協力で、内容の濃い練習をさせてもらっています」

■負けたら負けたで、いいのかな■

夢は五輪金メダル。だが、四十住には信念がある。

「金メダルは取れるなら取りたい。でも、もし五輪で金を取れなくても、これ以上、滑れないぐらい滑っている。もう後悔はないです。負けたら負けたで、いいのかなと思っています」

根っからの負けず嫌い。真意は過程の自信にある。

「練習は結果につながると思うけれど、結果だけを見ていたら、絶対につながらへんと思う。とりあえず練習する。やらんかったら『なんでやらんかったんやろ?』ってなるし、それが嫌やから、決めたことは絶対にやる。そこまでやるから後悔はないと思います」

国際大会で世界を巡って気付いた。東南アジアで資金面の格差を実感し、スケートボードが身近といえない環境を目の当たりにした。五輪の舞台で伝えたい。

「スケボはヤンキーとか、悪いイメージがあるけれど、真剣に世界を目指す姿で『楽しい』っていうのを見せたい。将来は子どもたちのサポートをして、私が経験してきたことを教えたい。スケボを嫌いになったことはないです。楽しくなかったら多分、今まで続いていない。目の前に大会があってもなくても、同じ生活をしていると思います」

 

◆スケートボード 東京五輪ではストリートとパークの2種目。出場枠は男女とも各種目20(1カ国・地域最大3)。最終的に6月30日発表の五輪予選ランキングで配分される。すでに五輪予選対象大会を終え、四十住は日本人上位3人以内に位置している。

◆ストリート 階段や手すりなど街中を模したコース。45秒間の滑走でトリック(技)の難度、独創性などを競う。男子の堀米雄斗(22=XFLAG)が金メダル候補。

◆パーク さまざまなサイズのおわん型のボウルや、斜面を使ったコースで争う。回転技が多く、スノーボードのハーフパイプに近い。難度などを見る採点競技で1回45秒。四十住は今月23日に行われたデュー・ツアーでジャンプしながら1回転半する大技「540(ファイブフォーティー)」を初成功。岡本碧優(みすぐ、14=MKグループ)に加え、五輪を12歳10カ月の夏季最年少で迎える開心那(ひらき・ここな、hot bowl skate park)の五輪代表が確実。男子もスノーボード五輪2大会連続銀メダルの平野歩夢(22=木下グループ)が五輪代表入りする見込み。

 

【四十住(よそずみ)さくら】

◆生まれ 2002年(平14)3月15日、和歌山・岩出市。

◆競技歴 小6でスケートボードと出会うまで「学校と公文に行って友達と遊んだり」。18年に日本選手権、アジア大会、世界選手権の3冠。19年プロツアー「VANSパークシリーズ上海大会」優勝。

◆経歴 昨秋に和歌山・伊都中央高卒業。2年時まで全日制。国際大会が増えて多忙なため、3年時から同校の通信制へ切り替えた。「飛行機でお昼に関西空港に帰って、そのまま学校に行ったり…。先生方にすごく助けてもらいました」

◆特技 スケートボードと折り紙。

◆家族 両親と兄。

◆サイズ 159センチ