東京五輪で金メダル獲得を目指すサッカー男子日本代表の挑戦が始まった。川口能活GKコーチ(45)は、19年からチームに合流。96年アトランタ五輪で「マイアミの奇跡」を起こした日本代表の一員だった名GKが、次はコーチとして、日本サッカー界の未来を背負う選手たちを悲願に導く決意だ。大事な初戦では教え子のGK谷晃生(20)も南アフリカを無失点に抑えた。

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大事な初戦で勝ち点3を奪い、教え子の谷もゴールを許さなかった。試合後の川口コーチも勝利を喜び、笑顔を見せた。

くしくも、あの歓喜からちょうど25年の日が南アフリカとの初戦となった。96年7月22日(日本時間23日未明)、日本はブラジルに勝った。4万人を超えるマイアミ・オレンジボウル競技場。大観衆の前で起こした大番狂わせ。守護神の川口はDFロベルト・カルロスのFKを止めるなど、1-0での金星の立役者となった。43歳まで現役を続け、19年に指導者になったばかり。すぐに代表チームに指導にあたる。「コーチとして経験がない自分が、大きな舞台で戦うチャンスをもらった。感謝しかない」。今も、身が締まる思いでいる。

代表での練習は実戦を想定したメニューを組んでいる。練習中、選手たちが立ち止まってシュートを受けるようなシーンはほとんどない。体勢を崩したところからセーブさせるなど、より難しい状況を常につくっている。「テクニックの反復はクラブで鍛錬されている」。限られた代表の活動期間で、培ってきた技術を最大限活用できるようにするための準備に、時間を割いている。

丹念な指導は選手にいき届いている。正GKとなった谷も「細部までこだわり、どこまで突き詰められるか」。5日から静岡・御前崎で行われていた直前合宿で、きまって最後まで残って練習するのはGKの3人だった。

マイアミでの経験を選手に話すことは「正直ない」という。伝えているのは、現役時代の自身を支えてきた不屈の闘志。「技術、戦術もだが、やはり戦う気持ちを大事にしてきた。最後のとりでとして、ゴールを割らせない準備を」。もちろん、失点することはある。12日のホンジュラスとの強化試合では1失点。試合後はGK谷に「失点した後の行動が一番大切だ」と言葉をかけた。うまくいかなかったときの振る舞い。そこでも真価が問われるのがGK。それをだれより知り、体現してきた日本のレジェンドの言葉は重い。

アトランタ五輪ではマイアミの奇跡があっても、決勝トーナメントには進めなかった。強敵に1つ勝つことがやっとだった日本は25年を経て、金メダルを目標に掲げるチームになった。若武者たちに、自身が果たせなかった夢を託し、ともに戦う2度目の五輪が始まった。【岡崎悠利】