東京五輪で初採用されたスポーツクライミング女子決勝は、日本勢がメダル2個を獲得した。野中生萌(みほう、24=XFLAG)が銀メダル、19年世界選手権銀メダルで今大会で現役引退する野口啓代(32=TEAM au)は銅メダルで有終の美を飾った。6日の男子決勝では楢崎智亜が4位に終わり、競技初メダルとなった。

野口には茨城県龍ケ崎市の実家に「鍛錬の場」がある。18年前、酪農を営んでいた父健司さんが古い牛舎にボルダリングの壁を作った。100万円の予算で縦8メートル、横3メートル、高さ3・5メートル。角度ある壁面全面に1000個以上のホールド(突起物)を取り付けた。野口が05年に世界選手権代表に初選出されたことをきっかけに拡張を繰り返し、当初の3倍以上の“虎の穴”で毎日腕を磨いた。

さらに、昨年には所属先が五輪仕様のスピード、ボルダリング、リードの3種目の壁「au CLIMBING WALL」を建設。行動認識AIを活用して全身65カ所の骨格点の動きを識別し、壁を登る姿勢や速度などを推定した。自身のくせを可視化して3種目の弱点を克服した。

コロナ禍以降、クライミングジムの休業が相次いで練習場所の確保に苦しむ選手が多い中、ステイホームのまま日本有数の施設で練習を積んだ。従来の壁を「登り込み用」、最新の壁を試合を想定した「シミュレーション用」と使い分けた。同じ所属の男子代表の楢崎智亜らも練習拠点とし、五輪直前には代表合宿でも利用。32歳のクライマーは「両方とも大事な壁。自分が強くなるために1日1日向き合いながら成長させてくれた相棒みたいな存在」と感慨に浸った。【峯岸佑樹】