「五輪を楽しむためのキーワード」競泳編。「え、競泳は皆、知ってるでしょ」と思っている、そこのあなた。テレビから聞こえる選手のインタビューで、知らない言葉があるかもしれません。実際の取材現場で出てきた言葉から「通」ぶれるキーワードを、日刊スポーツにしばしば登場する「ブル男」と「教えたガール」が解説します。【取材・構成=益田一弘】

■佐藤翔馬「ひとかきひとけりの部分が重要になる」■

Q ひとかきひとけり?

A 平泳ぎはスタート、ターン時に水中で腕によるひとかき(プル)と足によるひとけり(キック)が認められています。

Q ルールの話なんだ。

A 水中でキックを2度打つと泳法違反で失格です。キックを打った意識がなくても伸ばした足が動くとキックと見なされて、失格になることがあります。

■瀬戸大也「今回はテーパーしていない。その中でこのタイムは自信になる」■

Q テーパー? なぜ保存容器が出てくるの?

A それはタッパー。テーパー(taper)は、試合前調整のことです。この言葉はほとんどの選手が使います。「先細り」などを意味して、円すいのように、1点に向かってとがっている状態を差します。練習量を減らして、疲労を抜きながら、感覚を研ぎ澄ませていくことです。

Q どれぐらい減らすの

A 通常のテーパーは10日~2週間をかけて行います。練習量は3分の2にするケースが多いそうです。1回の練習で6000メートルを泳ぐ選手は3000~4000メートルまで減らします。通常にテーパーに加えて「ショートテーパー」という言葉もあります。文字通りに短い試合前調整で、期間は3~5日間が一般的です。

■池江璃花子「半バタで優勝を目指して頑張りたい。1フリは個人的にいろんな意味で楽しみな種目です」■

Q バタ、フリ? 種目のことなんだろうけど…。

A 選手は種目を略語で言います。個人メドレー=コメ、バタフライ=バタ、自由形(フリースタイル)=フリ、背泳ぎ=バック、平泳ぎ=ブレ。わかりにくいのは平泳ぎ。英語のブレストストローク(breast stroke)から「ブレ」といいます。

Q 数字は距離だろうけど、半って何? 半ドン?

A ほぼ正解。数字の1は100メートル、2は200メートル、4は400メートル。単位は100メートルです。例えば1フリ(いちふり)は100メートル自由形。4コメ(よんこめ)は400メートル個人メドレー。50メートル種目は「半」(100メートルの半分)。「半バタ」は50メートルバタフライです。800メートル自由形は「8フリ」ですが、1500メートル自由形だけは「センゴ」です。距離なしの単体種目の時は「コンメ」「バッタ」「フリー」と3文字でいいます。》

Q クロールがないね。

A 取材現場で「クロール」の単語を聞く機会はほぼないです。萩野公介選手がたまに言うぐらいです。》

Q リレーも省略する?

A はい。400メートルリレーは「4継(よんけい)」。これは陸上の400メートルリレーと同じです。800メートルリレーは「8継(はちけい)」。この2種目は全員が自由形で泳ぎます。

Q 12年ロンドン五輪で「(北島)康介さんを手ぶらで帰さない」という名言が生まれたのは何だった?

A 400メートルメドレーリレーです。背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形で100メートルずつ泳ぎます。「メリレ」と言われています。入江陵介選手は「メリレでしっかりメダル争いがしたい」とよくいっています。

Q メリレ…。かなり大胆に省略してるんだね。

■松元克央「これからまたトウミにいって泳ぎます」■

Q トウミってどこ?

A 長野・東御市です。国内で唯一、準高地合宿ができます。競泳は大一番の前に、標高2000メートル以上の高地合宿で心肺機能を高めます。コロナ禍以前は米フラッグスタッフ、スペインのシエラネバダなどが合宿地として有名でした。

Q 確かにコロナ禍で海外合宿はできないよね。

A 東御市は19年10月に標高1750メートルの準高地プールをオープン。その効果は2000メートル級に及びませんが、時差調整が不要です。プールからスキー場のゲレンデが一望できます。

Q スキー場の隣かあ。競技に集中できそう…。

A 最寄りのコンビニにタクシーでいくほどです。

■大橋悠依「コンメはスタイルワンなので国内で負けてはダメと思っています」■

Q さっき学んだよ。「コンメ」は個人メドレーだね。でもスタイルワンは?

A その選手が最も得意な専門種目のことです。試合で泳ぐ本命種目です。池江璃花子選手のスタイル1(S1)は、1バタ(100メートルバタフライ)佐藤翔馬選手なら2ブレ(200メートル平泳ぎ)です。

■萩野公介「平泳ぎはストリームラインをとって、余力を残せばよかった」■

Q テレビの解説者もよく口にする言葉だね。

A 流線形を意味して、抵抗が少ない姿勢のことです。手を伸ばして体全体を真っすぐにします。基本姿勢で、効率良く進みます。

Q どうすればいいの?

A 子どものころにやる、けのびです。壁を蹴って両手を前に出して、そのまま勢いで進む姿勢です。

■青木玲緒樹「アップでドライランドを変えました」■

Q 陸地?

A ドライランドは陸上でのトレーニング全般です。ストレッチや体幹トレーニング、バランスボールを使ったものがあります。陸上で正しい動きを反復し、水中で使いたい筋肉を動かせるように。ただし重りを使ったウエートトレーニングは意味が異なります。プール周りで行う陸上練習です。

 

☆ブル男☆38歳会社員。勤務地は築地にふらっと歩いていけるあたり。芸能ニュース、スポーツ観戦が好き。好きな食べ物は日本酒と青魚の寿司。口癖は「いいと思うよ」「さびしいなぁ」

☆教えたガール☆教えることが好きな女の子。スポーツや社会問題のわかりやすい解説には定評あり。好きな食べ物はのどぐろと瓶ビール。東京湾でのアジ釣りも趣味の1つ。