オランダのゴール前に立ちはだかったのは、この試合が代表デビューのGKアンドリス・ノペルト(28=ヘーレンフェイン)だった。レベルの高い好試合となったアフリカ王者セネガルとの初戦、ノペルトは誰よりも輝きを放ち、チームを2-0の勝利に導いた。

0-0で膠着(こうちゃく)状態が続いてた後半28分、相手MFのI・ゲイが放った強烈なシュートをセーブ。1点を先制した直後の同41分にはP・ゲイのミドルシュートを左手一本で防いだ。枠内シュート4本をことごとくストップ。勝利の立役者となった。

FIFAワールドカップ(W杯)で飛躍するスターは過去にも数多くいる。それでも、これほどのシンデレラストーリーは珍しい。プロキャリアは10年あるが、ほとんどが「控えGK」。それも2部リーグのチームがほとんどだった。

10年間で公式戦出場はわずか52試合。2回も所属クラブをなくし「浪人」生活を送った。2年前には新型コロナ禍で練習場所さえ失い、家族から「サッカーはあきらめて、警察官になって」と勧められたほど。

そんなノペルトが今年5月に下部組織時代に育ったヘーレンフェインに復帰して奇跡が起きた。スタメンで起用されると9月に代表に初選出された。1試合も出場がないままW杯メンバー入り。練習での好調ぶりが評価されて、初戦のスタメンに抜てきされた。

W杯が代表デビュー戦となるのも珍しい上に、いきなり大活躍。経験が必要とされるGKだけに、なおさら驚きは大きい。抜群の反射神経、運動能力の高さ、何よりの魅力は今大会最長身、203センチというサイズ。まさに、ゴール前に立ちはだかる壁になる。

かつてのW杯は「選手の見本市」と言われた。それまで目立たなかった欧州の強国以外の選手が、大会後にビッグクラブに活躍の場を移す。今は情報も発達していて「見本市」の役割も減ったが、まだまだこんなすごい選手が隠れていた。このまま活躍すれば、大会後の移籍市場でビッグクラブに移るのは確実だ。

メッシ、ロナウド、ネイマール…、すでに実力も人気もある選手の活躍は大会の大きな見どころだ。欧州のシーズン中でコンディションはいい。暑さや移動など過去のW杯で選手を苦しめたマイナス要素もない。実力者が実力を出し切る大会になりそうだ。

同時に、まだ見ぬ隠れた才能に出会えることも、W杯の魅力。隠れた才能が出てくることで、大会は一層楽しくなる。まだ序盤、ノペルトのように、あっと驚く選手に出会うのが楽しみだ。

素晴らしいセービングをみせたオランダGKノペルト(ロイター)
素晴らしいセービングをみせたオランダGKノペルト(ロイター)
セネガルに勝利しファンダイク(右)とハイタッチで喜ぶGKノペルト(左)(ロイター)
セネガルに勝利しファンダイク(右)とハイタッチで喜ぶGKノペルト(左)(ロイター)