日本が止まった。世界が止まる。新型コロナウイルスの脅威に、人類は普段の生活ができない。不安と恐怖の日々が続く。

サッカー界も止まった。15日までのJリーグ公式戦が延期になり、今月のW杯カタール大会アジア2次予選の2試合も延期濃厚だ。今後の状況次第では6月の2試合も延期になる可能性があるという。W杯予選は、各国の条件に大きな差はなく、時期がずれるだけで、目立った不利益を受ける国はいない。しかし東京五輪代表になると、話は別だ。

マジョルカMF久保ら海外組が大半を占めるホスト国の日本は、3月と6月の国際Aマッチ週間でないと、ベストメンバーを集めることは不可能だ。J日程が延期になり、国内組だけを集めるのも難しい。これまでの成績は振るわなかったが、私は五輪本番までの長いシミュレーションの中の過程との認識があったので、焦らなかった。勝てない時期が続いたが、多くの選手を試し、長期計画で休養を優先させるなど、独自の強化プランがあったため、成績不振をそれほど深刻とは思わなかった。

しかし、ここへきて少し焦り始めている自分がいる。3月はアフリカ対策の時期だったが、まず南アフリカ代表が試合辞退した。コートジボワール代表から辞退申し入れはないが、実現できるかはまだ不透明だ。さらに6月シリーズも流動的なため、テストマッチなしで7月の大会直前合宿に突入する最悪のシナリオも考えられる。しかもまだ、オーバーエージ(OA)枠の3人は試せていない。

新型コロナウイルスに苦しむ患者や家族、医療陣、ワクチン開発に取り組む研究者、新病の感染拡大により、規模縮小を余儀なくされた企業、売り上げが落ちた商人、学校に行けなくなった小中高生らとは比べものにならないが、五輪メダルを目標とする日本サッカー界にも大きなダメージになることは間違いない。南米や欧州の強国と違って、日本は所属クラブでレギュラーを確保した選手が少ない。代表で手を合わせ、組織力を高めて強国に対抗するしかない。今回はそのチャンスを失うかもしれない。

人類はコレラ、ペストなど強烈な伝染病に苦しみ、多くの犠牲者を出しながらも克服してきた。研究者の努力でワクチンを作り、それぞれが抗体を作ってきた歴史がある。五輪代表が直面した危機。これは人類の対新型コロナウイルスとの戦いに比べると、小さいもののはずだ。

森保監督らスタッフの悩む日々は続くだろう。深く悩めばいい。日本は、戦う集団としてどんな抗体を作っていくのだろうか。世界初の抗生物質、ペニシリンは偶然発見されたと言われる。その偶然は研究を重ねる過程で生まれた産物だ。五輪代表の苦しみながら生み出す化学反応を見守るのも、楽しみの1つだ。

【盧載鎭】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。88年に来日し、96年入社。20年以上サッカー担当。サッカー界で人脈を構築していく上で、偶然の出会いが大きな財産になることを多々経験している。新型コロナ禍で、次女の全国高校選抜フェンシング大会が中止になったことが残念な2児のパパ。