近年、大学サッカー出身選手の活躍に注目が集まっている。高体連とクラブユースが合流し、プロほどレベルは高くない大学サッカーではどのような指導、チーム作りが成されているのだろうか。

東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)
東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)

総理大臣杯で全国16強躍進

今年、MF住田将(松本山雅FC)MF武沢一翔(FC琉球)FW鈴木魁人(いわてグルージャ盛岡)FW河田稜太(アスルクラロ沼津)と4人をJリーグへ送り出す関東大学2部リーグ所属の東京学芸大学で指揮を執る、星貴洋監督(40)に話を聞いた。

学芸大OBの星監督は選手時代、鹿島アントラーズなどで活躍した元日本代表岩政大樹氏の1つ下の学年でプレー。2005年の卒業後もコーチ、監督として11年までチームに携わり、別チームを経て、20年シーズンからコーチとして母校に戻ってきた。

9年ぶりに戻り、都リーグから1年で関東2部リーグに復帰させ、監督に就任した21年シーズンは2部リーグで3位となり、1部昇格プレーオフへと進んだ。総理大臣杯では全国ベスト16に入った。どうチーム変えたのか? 問うと「特別なことはないし、魔法のようなことは絶対無いです。こういうことをすれば勝てるということはないです」と断言した。

プロと違い、欲しい選手を補強できるわけではない。「スカウトができないので戦力は安定しないです。トップレベルとそうでない選手の能力の差もありますね」と大学サッカーならではの事情を明かした。

東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)
東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)

毎日の習慣がゲームに出る

さまざまなバックボーンをもつ選手がいる中で、意識するのは「プレーの原則」を共有することだという。

「原則的なところをトレーニングして、それで自分で判断してやってっていうところですね。次にこういうことが起こりそうだからこうしようっていうトレーニング。シーズン前には一般的なところの各局面をトレーニング。シーズン中は自チームでやりたいことと、相手チームのやりたいこと、こういう局面が相手によって起こり得ることを1週間準備するっていう感じ。その中で、一貫して勝敗を分けるところを徹底する」

高校時代までにある程度サッカーを経験し、主体的にプレーする能力がついていることから、原則を伝え、選手の自主性に任せる部分が多いという。

学芸大で「プレーの原則」以外に植え込んだのは、細部へのこだわりだ。「徹底したのは毎日の習慣がゲームに出るので、トレーニングで力を出し切ること、競争すること。ゴール前でシュートブロックできるか、こぼれ球をおしこめるか。サッカーってその1点が勝敗を分ける。結局そういうことを毎日意識して練習しているか。ゲームでの1点をわける」と説き続けた。

今季勝利した11試合中、1点差で勝ったゲームが9試合。引き分けが2試合と少なく、勝負強かった。主将の住田も「かなり変わりましたね。ポジショニングとか、背後の取り方とか指導してもらいました。目の前の相手に負けない、競り負けない1対1で負けないというところも徹底できるようになりました」とチームの成長を口にしていた。

東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)
東京学芸大の星貴洋監督(撮影・佐藤成)

リーグ再編がレベルアップに

相手チームのスカウティングは学生が行うのも大学サッカーならでは。その分析を元に監督が練習で対策をチームに落とし込む。「若いうちにチームの中でリーダーシップを発揮して、チームを勝たせるために責任を負ってプレーする。サッカーのレベルは置いておいて、チームを勝たせるという責任の大きさっていうのが大学の方が経験をできる。その経験を4年間できるっていうことで逆転現象がおきるのでは」と近年の大学サッカー経験者の活躍ぶりを分析した。

星監督にとって久々の関東リーグは「大学生のレベルが上がっていてやっていて楽しかったですね」。レベルの向上の要因は、リーグの再編と、私立大学の強化策だという。05年シーズンから関東リーグは1部2部ともに12チーム制になり、1部に2部から4チームが昇格、2部には都県リーグから8チームが昇格するレギュレーションとなり、活性化した。

「私立が力を入れだして、大学サッカーのレベルは上がりましたね。今、関東を3部リーグまで増やすっていう話もあって。神奈川や北関東とか、上位と下位で差があるリーグもある。神奈川県に東京都を組み込むとか、北関東に埼玉を入れるとか、関東3部をつくるとか。その方が良いと思うんですよね」と関東リーグ以下の再編の可能性にも言及した。

チームによって多少の差はあるが、高校年代ほど指導者の意見が絶対ではなく、自分で考える余白が多い分、自分の強みを最大限表現する能力が身につく。その上、高校よりも強度が高くプレーするために、全体的なレベルが向上し、プロの世界でもスムーズに活躍することが可能なのではないか。【佐藤成】