全国高校サッカー選手権(30日開幕)の平成時代を振り返る連載「HEY!SAY!サッカー選手権」。最終回は平成の高校サッカー史に残る「あの名言」の舞台裏に迫ります。

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「大迫、半端ないって」。この言葉が生まれたのは、今からちょうど10年前の平成20年度(08年度)の第87回大会準々決勝、滝川二-鹿児島城西。滝川二のDF中西隆裕主将が、大迫勇也擁する鹿児島城西に2-6と完敗し、泣きながら叫んだことは有名な話だ。

滝川二の2年生ボランチとしてあの試合に出場し、ロッカールームでこの言葉を目の前で聞いた“もう1人の中西”ことMF中西規真(27=現J3・YS横浜)に当時の話を聞いた。

「中西さんはムードメーカーでキャプテンだったし、あの人の人柄というか、ああいう言葉が狙ってなくてポッと出るような、そういう人だった」。当時のチーム目標は「笑顔を絶やさないこと」。沈んだ空気を和ませようとした、主将なりの気配りだった。

6月のロシア・ワールドカップで大迫が得点すると、再び注目された。「大迫半端ないって」は今年の流行語大賞トップ10入り。当時の動画はネット上で拡散され、高校卒業後に「あの中西か」とよく間違われていた自身にも、再び「もしかして」と懐かしい声がかかるようになった。

一発芸などで場を和ませながらチームを引っ張っていた先輩とは「タイプが違う」というが、あの大会後に新チームの主将を引き継ぎ、今ではYS横浜の主将も務める。そして名言誕生の地は、そのYS横浜の本拠地ニッパツ三ツ沢球技場のホーム側ロッカー室だ。「みんなが座っていた席も今でもすごく覚えています。当事者ではないですけど、個人としてもチームとしてももっと取り上げられるように、できれば“半端ない”活躍をしたいですね」。

「後ろ向きのボール(後方からのパス)」を華麗にトラップする大迫の姿にはチーム全員が衝撃を受けた。「人間関係を含めて、サッカーの素晴らしさを最も知った3年間でした」。悔しい敗戦と思いがけない名言に出合ったあの日を、今では前向きにとらえている。【松尾幸之介】(おわり)