東京オリンピック(五輪)に向け、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が6月29日に参加メンバーを発表し、9年ぶりとなるスペイン五輪代表チームが本格的に始動した。

スペインは東京五輪予選を兼ねた2年前のU-21欧州選手権に優勝し、2大会ぶりの五輪出場権を獲得。これまで通算10大会に出場し、地元開催の1992年バルセロナ大会で金メダル、1920年アントワープ大会と2000年シドニー大会で銀メダルに輝いている。最後に参加した2012年ロンドン大会では1次ラウンドで日本、ホンジュラスに敗れ、0勝1分け2敗の最下位となり早々に敗退した。そして前回の2016年リオデジャネイロ大会に参加できなかったため、今回、9年ぶりに五輪代表チームが組まれている。

今回のU-24スペイン代表のメンバーは大会屈指との前評判が高い。スペインには「各スポーツ協会から五輪参加の要請があった場合、選手を義務的に参加させなければいけない」というスポーツ法が存在する。そのため、スペイン国内のクラブには拒否権がなく、国内組に関しては指揮官の考えるベストメンバーを招集できたと言えるだろう。

一方、国外でプレーする選手に対してはスポーツ法が適応されないため、ボルハ・マジョラル(ローマ)、欧州選手権参加メンバーであるロドリゴ・エルナンデスとフェラン・トーレス(マンチェスター・シティー)、ファビアン・ルイス(ナポリ)は所属クラブからの許可が下りずメンバー入りできなかった。この中でファビアン・ルイスはU-21欧州選手権でMVPに選ばれており、東京五輪出場権獲得の立役者だった。

OA枠にはレアル・マドリードのマルコ・アセンシオ(25)とダニ・セバージョス(24)、レアル・ソシエダードのミケル・メリーノ(25)のA代表経験者が選出された。チーム最年長で中心的な役割を担うアセンシオは「クラブと代表で主要な大会を戦ってきた僕の経験は、特に若い選手たちのために役立つと思う。スペイン代表として五輪に臨めることはすべてのアスリートの夢。僕たちの目標は間違いなく金メダルだ」と意気込みを語っていた。

そして先の欧州選手権でベスト4入りしたA代表から、ウナイ・シモン、エリク・ガルシア、パウ・トーレス、ミケル・オヤルサバル、ダニ・オルモ、そして18歳ながら大会最優秀若手選手賞およびベストイレブンに選ばれたペドリの6選手がメンバー入り。この中でペドリとウナイ・シモンは準決勝までの全6試合に先発出場し、PK戦の末に敗れた準決勝イタリア戦ではエリク・ガルシア、ダニ・オルモ、オヤルサバルもスタメンに名を連ね、A代表でも中核を担う選手たちが選出されている。

さらに昨季、国内リーグで目覚ましい活躍を見せたオスカル・ミンゲサ、フアン・ミランダ、マルク・ククレリャ、マルティン・スビメンディ、ブライアン・ヒル、ラファ・ミルなどが加わり、スペイン国内では29年ぶりの金メダルへの期待が高まっている。

また、東京五輪の出場権を獲得した2年前のU-21欧州選手権優勝メンバー23人を振り返ってみると、今回も選ばれたのはウナイ・シモン、ヘスス・バジェホ、セバージョス、オヤルサバル、ダニ・オルモ、カルロス・ソレール、ミケル・メリーノ、ラファ・ミルの8選手のみである。

選手の市場価値総額が参加16カ国中断トツであり、随一の戦力を誇るスペインにとっての大きな障害は、やはりアジア特有の高温多湿の気候と考えられている。その対策として、国内では多湿のスペイン東部沿岸のリゾート地ベニドルムで12日間の合宿を実施してきたが、日本の湿度が80~95%であるのに対し、ベニドルムは50~60%と万全の準備ができていない。

そして合流が遅れた欧州選手権の参加メンバーに至っては、連戦の疲労に加え、大会期間中に最も多くの日数を過ごしたマドリードの湿度が20~30%と日本と大きくかけ離れているため、コンディション調整に苦しむと推測されている。

さらに悪いことに、当初12日に日本へ向けて移動予定だったが、チャーター機の故障により1日遅れで飛び立つことになった。デ・ラ・フエンテ監督のプランは出発前から狂い、時差ボケが若干懸念されている。

また、欧州選手権参加メンバーがスペイン国内で一度もチーム練習を行っていないことや、五輪代表としてロンドン大会以降の9年間、1度も実戦経験がなく、未知数のチームであることも不安材料になるかもしれない。

チームは14日に日本へ到着しており、17日に神戸で日本五輪代表相手に今大会に向けた唯一のテストマッチを実施する。この時に初めてスペインがどのような布陣で臨むかが判明することになる。

その後、札幌に移動して22日に東京五輪1次ラウンド初戦エジプト戦、25日に第2節オーストラリア戦を戦い、28日に埼玉で行われる第3節でアルゼンチンと対戦する予定になっている。

日本での短い準備期間の中、スペインで経験したことのない高温多湿の気候に適応し、欧州選手権の参加メンバーをうまく組み込むことが、29年ぶり2度目の金メダル獲得に向けた大きな鍵となるだろう。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)