女子1500メートルで6位に終わり、涙を流す高木美帆(AP)
女子1500メートルで6位に終わり、涙を流す高木美帆(AP)

五輪の1500メートルはスピードスケートの「世界一決定戦」なのだ。1992年アルベールビル五輪で女子のスタートリストを見た時にそう思った。500メートル金メダルのブレア(米国)、3000メートル、5000メートル2冠のニーマン(ドイツ)……あらゆる種目のトップ選手が名を連ねるオールスターゲームだったからだ。

陸上で例えるなら100メートルと1万メートルのメダリストが800メートルで勝負するようなものかもしれない。スタートからぶっ飛ばしたブレアは終盤に失速して21位の惨敗。この種目は短距離のスピードと長距離のスタミナに加えて、レース戦略を含めた総合力が求められる。だから橋本聖子さんが銅メダルを獲得した瞬間は、震えるほど感動した。

アルベールビル五輪の女子1500メートルで銅メダルを獲得し、笑顔を見せる橋本聖子(1992年2月)
アルベールビル五輪の女子1500メートルで銅メダルを獲得し、笑顔を見せる橋本聖子(1992年2月)

ミラノ・コルティナ五輪の女子1500メートルも多様な才能が集結した。500メートル女王、長距離2冠王、団体パシュート金メダリスト……そんな中で過去2大会連続銀メダルの高木美帆は金メダルだけを狙ってスタートからトップギアで攻めた。残り1周で失速して6位に終わったが、最も難しいこの種目で頂点を目指すという美学を、最後まで貫き通す姿は尊いと思った。

22位に終わった佐藤綾乃がテレビのインタビューで「(高木は)私にはかなわない高いレベルでやっていた」と語っていた。肉体と精神の限界を超えた努力をずっとしてきたのだろう。そのストイックな姿勢は、高木とともに団体追い抜きで銅メダルを獲得した22歳の堀川桃香や、21歳の野明花菜にとって最高のお手本になったはずだ。

スピードスケート女子1500メートル レース前に調整する高木美帆(AP)
スピードスケート女子1500メートル レース前に調整する高木美帆(AP)
女子1500メートルに臨む高木(撮影・前田充)
女子1500メートルに臨む高木(撮影・前田充)
女子1500メートルで6位に終わった高木(撮影・パオロ ヌッチ)
女子1500メートルで6位に終わった高木(撮影・パオロ ヌッチ)
女子1500メートルで6位に終わり、ヨハン・デビット・コーチ(左)と抱き合って涙する高木(撮影・前田充)
女子1500メートルで6位に終わり、ヨハン・デビット・コーチ(左)と抱き合って涙する高木(撮影・前田充)

前日の男子1500メートルでは、高木が前回北京大会後に立ち上げた「チーム・ゴールド」で練習してきた中国の寧忠岩が、同種目アジア勢初の金メダルを獲得した。1000メートルと団体追い抜きの銅に続く3つ目のメダルを手にした26歳も高木に刺激を受けたのだろう。所属や国籍の垣根を越えて集まり、相乗効果でさらに上を目指す。五輪精神を象徴する彼女の強い思いが実を結んだのだ。

橋本さんの銅メダルは日本女子の冬季五輪初のメダルだった。あれから34年。高木はたった1人で夏冬通じて日本人最多の10個のメダルを手にした。31歳。もしかするとこれが最後の五輪になるかもしれない。悔し涙を流す高木を見ながら、この不世出のアスリートの姿を、敬意を持って瞳に焼き付けたいと思った。【首藤正徳】

女子1500メートルのレースを終え、リンクに一礼する高木美帆。6位だった=ミラノ(共同)
女子1500メートルのレースを終え、リンクに一礼する高木美帆。6位だった=ミラノ(共同)