男子テニスで、世界9位の錦織圭(27=日清食品)が、右手首の腱(けん)の裂傷で、28日開幕の全米を含む今季すべての大会を欠場すると発表した。こういう時に、あのときの言葉を思い出す。

 「もう2度とトップになれないのではと、どん底だった」。

 錦織は09年年頭に右ひじに違和感を覚え、同年3月を最後にツアーから離脱。8月に都内で内視鏡検査を受けると、軟骨損傷と滑膜の炎症が見つかった。その場でクリーニング手術を受け、本格復帰まで約1年を要した。その間、59位にまで上がっていた世界ランキングは、10年3月22日付で消滅した。

 10年2月に1度、米ツアーで復帰を試みた。しかし痛みが再発し「あの時が、一番つらかった」。そして、冒頭の言葉につながる。その後、4月のツアー下部大会で本格復帰を果たし、11月22日には消滅していた世界ランクを99位に戻し、トップ100に復帰した。

 確か11年の頃だった。雑談の中で「けがをすると、やっぱり何でだよって思う?」とたずねた。軽率だったが、何げなく聞いた質問に珍しく、いつもは温厚な錦織が、強い言葉を返してきた。

 「決まってるじゃないですか」

 トレーニングをおろそかにしているわけではない。しかし、けがはつきものだ。自分ではどうしようもない体の悲鳴に、自分で自分に腹が立っていた。

 09年の手術以来、痛みに関して敏感になってきたことは事実だ。また、あのときのように、どん底は味わいたくない。少しでも違和感があると、大事にならないように、心も体もストップをかけた。

 それでも、どん底から復活を果たし、全米準優勝、世界4位にまで上り詰めた。今回の離脱も、どのぐらいの期間になるかは、まだ分からない。しかし、あの時「どん底」から世界のトップに復帰したことを思えば、今回もまた不死鳥のように復活できると彼は信じていて欲しいと切に願う。【吉松忠弘】