ラグビー「リーグワン」の花園近鉄ライナーズは、長いトンネルの中にいる。
開幕から3月17日の東京サントリーサンゴリアス(東京SG)戦まで12戦全敗。このままシーズンを終えてしまうのだろうか-。
ただ、暗闇の中にひと筋の光が見えている。
東京SG戦(12-64)で公式戦デビューを果たしたのが、19歳のヴィンセント・セフォだった。
18歳でオーストラリアから来日。リーグラグビー(13人制)のブリスベン・ブロンコスに所属していた高校(ブリスベンステート高)卒業後、スカウトの目に留まって花園入りした。
186センチ、105キロ。体格を生かして高校まではNO8だった。それが、WTBにコンバートされてから才能が開花しつつある。
デビュー戦でトライを挙げただけでなく、力強い走りで相手守備を切り裂いた。東京SGの日本代表FB松島幸太朗ら2人に止められても足をかき、前へ出続けた。敗戦の中で強烈なインパクトを残し、リーグワンの公式ツイッターは「ポテンシャルの高さを見せつけました」と伝えている。
プレーは強烈だが、素顔は少年のように初々しい。
23日に東大阪市花園ラグビー場の第2グラウンドであった公開練習。左アキレス腱(けん)断裂からの復帰を目指しているオーストラリア代表SOクウェイド・クーパー(34)にアドバイスを仰ぎ、耳を傾けていた。雨脚が強まった練習後、スタジアムの下で話を聞くと笑顔でこう話した。
「世界レベルの選手(クーパー)から教えてもらって、すごく勉強になります。試合はずっと緊張していました。WTBはスピードも大事だし、NO8とは違ったスキルが求められる。キックも、キャッチもしないといけないから。でも1発目のタックルに入ってからは、自信がついた」
謙虚な姿勢だからこそ、成長が早いのだろう。
パナソニック(現埼玉)でコーチ経験のある水間良武ヘッドコーチ(HC)は「キックはボールの持ち方から教えましたよ」と笑いつつ、こう続けた。
「ベン・ガンター、ジャック・コーネルセン、ディラン・ライリーと同じ香りがしますね。それは彼にも伝えています」
同じオーストラリアから海を渡り、日本代表の扉を開いた埼玉の3人と、似ているというのである。
セフォに問うと、こんな答えが返ってきた。
「日本代表になって、ワールドカップ(W杯)に出たいです。日本国籍を取得することも考えています」
いつからか、ブレイブ・ブロッサムズ(日本代表)は、海を渡ってきた選手たちにとっても憧れの存在になった。
次節横浜キヤノンイーグルス戦(25日、大分)は、今春に大学を卒業したアーリーエントリーの全5選手がメンバー入りした。水間HCは「この若い子たちが、3~4年後は大きな力になる」と期待する。
今は、確かに負けてばかり。ただ、そんな花園にも、いつか輝く原石がたくさんいるのである。【益子浩一】