わずか1点及ばずシーズン終了。敗戦直後、感情的になりコートから姿を消してしまったエースを、コートに立てなかった仲間が救った。

バスケットボール男子Bリーグが大詰めを迎えつつある。1部(B1)プレーオフのチャンピオンシップ(CS)準々決勝では、前年と同じ顔合わせとなった島根スサノオマジックとアルバルク東京が激闘を展開。1勝1敗で迎えた15日の第3戦で、A東京が83-82で島根を破って1年前の雪辱を果たし、4強に進んだ。

敗れたとはいえ、島根はレギュラーシーズンMVP候補のペリン・ビュフォードがCSでも大活躍。得点、リバウンド、アシストの3部門で2桁を記録する“トリプルダブル”を、シリーズ3試合すべてでマークした。

白熱の1点差ゲームとなった最終戦。残り約10秒で、逆転を狙ったラストプレーを託されたのもビュフォードだった。しかし、ドリブルのスピードを上げようとしたところで足が滑り、体のバランスが崩れた。万事休す。ボールを失った数秒後、試合終了のブザーが響いた。

悔しさのあまり、コート上でしばらく突っ伏して動けなくなったビュフォード。ようやく起き上がるとコートの外へ向かって歩き出し、大きな叫び声を上げた。そして相手選手と健闘をたたえ合うこともなければ、ファンにあいさつすることもなく、1人でロッカールームへと消えてしまった。

まさかの“エース不在”となった状況で、ホームチーム島根のシーズン終了セレモニーが始まった。大勢のファンの前で主将の安藤誓哉があいさつをしていたとき、背後に並んでいた選手の1人が、松葉づえをつきながらコートを横切っていった。左膝を負傷し、CSでは出番がなかったウィリアムス・ニカだった。

経験豊富な35歳のベテランが向かった先は、チームのロッカールームだ。そこには悔しさを爆発させ、姿を消してしまったビュフォードがいるはずだった。「ペリンを助けたかった。彼をみんなのもとに戻したいという一心だった」。がらんとした一室で、1人で肩を落とす6歳年下のチームメート見つけると、優しく手を差し伸べた。

数分後、2人はコートに戻ってきた。先導するウィリアムスは、大観衆に対して同僚をあらためて紹介するかのように、手を振り上げながらコールした。「M・V・P! M・V・P!」。そのあとコートを1周するビュフォードを見守り、コート脇で拍手を送り続けた。

「ペリンが戻ってきてくれて、ただただうれしかった。チームメートの輪の中に戻ってきてくれて本当に良かった。そしてファンの歓声も、完璧なものになったと思う」

レギュラーシーズン終盤の4月、ウィリアムスはけがで戦線離脱を余儀なくされた。病院で診断を受け、失意を胸に車で帰宅する途中に偶然、ビュフォードとすれ違った。

「そのあと彼からメッセージが来たんだ。そして会話も交わした。けがで試合に出られなくなったことが分かったあと、ペリンからたくさんの勇気をもらった」

自分が苦しい思いをしていたとき、ビュフォードの言葉に救われた。だからこそ、我をなくした親友の姿を見て思った。「今度は僕が彼を助けなければ」。その思いはしっかりと伝わった。

敗戦後、コートに戻ってファンの前で1周したあと、ビュフォードは相手チームのロッカールームを訪れた。そしてコート上では伝えられなかった思いを告げた。「アルバルクとまた熱い戦いができて良かった」。このときの様子はA東京の公式ツイッターアカウントで確認できる。「突然のできごとで映像が乱れております」と付記された動画は、公開から約3日で、すでに112万件近く表示されている。

Bリーグの頂点を決める戦いは、準決勝、そして決勝と続く。コート上では熱い戦いが繰り広げられ、激闘の後も、さまざまなストーリーが交錯していく。【奥岡幹浩】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)


◆ウィリアムス・ニカ 1987年(昭62)7月9日生まれ。カリブ海に浮かぶセントビンセントおよびグレナディーン諸島出身。米パシフィック大卒。11年に当時の日本プロリーグ

bjリーグ高松に入団。その後も多くの日本のクラブでプレーする。19年に日本国籍取得。B1島根には20年より所属。22年には約3年ぶりに日本代表に選出された。身長203センチ、体重111キロ


◆ペリン・ビュフォード

1994年(平6)1月25日生まれ。ミドルテネシー州立大学卒。16年にイタリアのプロクラブに入団し、オーストラリア、トルコなどでのプレーを経て、20年よりB1島根に加入した。22-23年レギュラーシーズンでは10度のトリプルダブルを記録。身長198センチ、体重100キロ

悔しさをにじませながらもファンに手を振るB1島根のビュフォード(中央)と、ファンに「MVP」コールを呼びかけるウィリアムス(右)(Bリーグ提供)
悔しさをにじませながらもファンに手を振るB1島根のビュフォード(中央)と、ファンに「MVP」コールを呼びかけるウィリアムス(右)(Bリーグ提供)
B1島根のビュフォード(左)と、チームメートのウィリアムス(Bリーグ提供)
B1島根のビュフォード(左)と、チームメートのウィリアムス(Bリーグ提供)
ファンの前でコートを1周するビュフォード(右端)を見守るウィリアムス(中央)(Bリーグ提供)
ファンの前でコートを1周するビュフォード(右端)を見守るウィリアムス(中央)(Bリーグ提供)