男子SPで17年世界選手権代表の田中刑事(23=倉敷芸術科学大大学院)が国際スケート連盟非公認ながら自己ベストの91・34点をマークし、2位につけた。極度の緊張に見舞われながらも全てのジャンプを成功させた。「男子2枠目」での18年平昌(ピョンチャン)五輪出場に前進した。96・83点で首位に立った宇野昌磨(20=トヨタ自動車)とは5・49点差。3位には85・53点の無良崇人(26=洋菓子のヒロタ)が入った。

 演技前、前傾の田中は緊張で動かない足を「失敗していいから、思いっきりやる」とたたいた。冒頭の4回転サルコーで波に乗り、スピン3つは最高評価のレベル4。午前0時まで練習した直前1カ月間の成果で「体に染みついたものを出せた」とクールな男が左拳を握る。五輪を争う3位無良に5・81点差をつけた。

 世界王者であり同期の羽生とは、小4夏からジャンプの習得を競った仲。離れていても先月22日の誕生日に、トロントで療養中の友から祝福と「ケガに気をつけろよ」というメッセージが届いた。過去の実績で代表選出が確実な羽生を「結弦がいることで焦った。いなかったら、向上心がなかった」と追い続けてきた。

 年1回の全国有望新人発掘合宿で受けた刺激は、岡山・倉敷市の実家から徒歩圏内の「ウェルサンピア倉敷」で励む練習の活力に変えてきた。だが、中2だった08年4月末には社会保険庁の年金財源確保の一環でそのリンクが閉鎖された。

 スケート関係者はリンクの存続を求める運動を起こし、田中も「このリンクをつぶさないでください」と頭を下げた。高橋大輔も生んだリンクの存在は、競技を続けるために必要だった。だが、入札の手は挙がらない。10カ月後の翌09年2月、救ってくれたのが今年獣医学部新設問題で揺れた学校法人加計学園だった。

 連日の加計学園問題は複雑な気持ちで見た。「加計さんが買い取ってくれなかったら、リンクがつぶれていた、という思いもあるんです」。「ヘルスピア倉敷」の名称で再生した故郷のリンクを思い、スケートができる喜びに感謝する。

 現在は兵庫が拠点で、リンク通いは自転車の庶民派スケーター。羽生との同時五輪出場は近づき「フリーでも同じ緊張感が来る。それを支配できるようにしたい」。人生最大の勝負に悔いは残さない。【松本航】