“エリマコ”こと穂積絵莉、二宮真琴(ともに24=橋本総業)組は、全仏女子ダブルス決勝で惜しくも敗れ、日本女子ペアとして4大大会初の優勝を逃した。穂積の母盛子さんは、急きょ日本から駆けつけ、センターコートの観客席から、娘の姿を目に焼き付けた。二宮の母圭子さんは、日本から電話でハッパを掛けていた。母が支え続けた2人のテニス人生が、敗れたとはいえ、赤土世界最高峰の舞台を経験し、花を咲かせつつある。

 敗戦後、穂積は赤土の上で、家族席にいる母を見た。「涙があふれてきそうだった」。敗れた悔しさだけではない。「勝ち負けよりも、なかなかいいプレーを出すことができなくて残念だった」。

 2人の間では、12年にプロ転向した際、1つの約束があった。それは、4大大会のシングルスに世界ランクで本戦入りするまで、盛子さんは応援に行かないというものだった。しかし、それを破り、穂積は応援を頼んだ。

 盛子さんは「ダブルスの約束はなかったし、喜んで行かせてもらう」。穂積が準決勝に勝った8日深夜、急いで航空券を買った。会社に有休を願い出て、一睡もせずに決勝前日、初めて4大大会に駆けつけた。「初めてグランドスラムに来て、いきなりセンターコートで決勝の舞台。本当に幸せ」。

 母1人子1人だ。穂積の父祐二さんは、食道がんで14年2月に亡くなった。55歳の若さだった。13年6月に末期がんが判明。もう手遅れだった。その年の11月の全日本選手権。祐二さんは、決勝が行われた東京・有明コロシアムで、点滴を着けながら、娘の初優勝を見守った。

 穂積は、先進医療なら、父を助けられるのではないかと思ったという。しかし、先進医療には、それなりのお金がかかった。全日本の優勝賞金は400万円。優勝後、母にすぐに告げた。「すぐにパパの病院に払ってね」。その娘の言葉を聞きながら、盛子さんは「そんな風に言える彼女がすてきだなって。そんな子供でいてくれてよかったなって思った」。

 穂積には、テニスをやる理由として秘めた思いがある。それを盛子さんは理念と呼ぶ。「人の心を動かしたいというのがある。絵莉の元気のある試合を見て、すごい元気になれるよねとか、明日からの仕事、何か頑張っていけそうな気がするとか。そう思ってくれただけでも成功」。

 この日も、何度もセンターコートの観衆から、穂積や二宮は大きな拍手を浴びた。その娘を見ながら、盛子さんは「本当に楽しかった」と勝負よりも、娘の頑張りが誇りに思えた。「まだ夢の途中。途中なので、これからもどんどん頑張っていくだろうし、人の気持ちを動かしてほしい」。