世界28位の錦織圭(28=日清食品)が、壮絶な4セットを制し、ウィンブルドンでベスト8に初進出した。

これで、日本男子として初めて4大大会全て8強以上に進出する快挙も達成した。「今までなかなかこの壁を破れなかった。うれしい気持ちはある」。しかし、すぐに気持ちを引き締め「まだまだ優勝するためには、ここからタフな戦いが続く。安心もしていられない」と前を向いた。次戦は2勝13敗と大きく負け越している元世界王者のジョコビッチ(セルビア)と対戦する。勝てば、日本男子として33年佐藤次郎以来85年ぶりのベスト4となる。

 実は、芝のシーズンに入って、小さなことだが、多くの新しいことを取り入れている。サーブを少しコンパクトにしたり、ベースライン内側に入って前陣速攻のように打つなど、フォームやスタイルの改良はこれまであった。しかし、簡単に変えられるルーティーンは、ほとんど変えてこなかった。

 まず、第2サーブを打つ時に、ボールボーイから球を受け取るようになった。これまで、第1サーブ前に2個球をもらい、1個はポケットにしまった。第2サーブは、ポケットから球を出し打っていた。

「(第2サーブで)ボール取るのが面倒くさくなる。(だから)なるべくファーストを入れたい。1球、1球を集中する思いが込められている」

 前哨戦のドイツ・ハレの大会から、試合前のコイントスに勝った時、自分からサーブを先にすることを選んでいる。今大会は1~3回戦全てコイントスに勝ち、サーブを選んだ。これまでコイントスに勝った場合、頑なにリターンを選んでいた。

「ふいにサーブからやってもいけんじゃないかなって思って。強気な気持ちは必要だし、1-0、2-1とリードできて気持ち的には違う」。ただ、芝限定とも考えている。

 大会前の6月30日の土曜に一日、練習をしない日を設けた。1回戦が翌週3日の火曜と決まったため、1、2日に集中練習を行おうと練習を休んだ。これまで、大会前に練習を休んだことはほぼなかった。

 苦手な芝の克服に、自分なりに悩み、何かを変えようとしているようだ。芝コートで、けがが多発したことも原因にあるだろう。体を休め、できる小さなことから変えてみる。それが直接、結果につながるかどうかは分からないが、何とかしたいという錦織の必死さは伝わってくる。

 そういえば、6月の全仏の時に、マイケル・チャン・コーチが話した言葉を思い出した。「今年は(芝に対して)違ったアプローチを考えている」。その言葉を最後に、話をする時間が切られてしまったので、その違いが何かは聞けなかった。今思えば、このような小さな変化が「違ったアプローチ」だったのかも知れない。