百戦錬磨の名プレーヤーも、初めて経験するハプニングに困惑の表情を浮かべた。

優勝4回の桃田賢斗(28=NTT東日本)と前年優勝の田中湧士(23=同)が、白熱の好ゲームを展開。第2ゲームの勝負どころ、桃田が17-13でリードしていたラリーで、桃田の放ったショットはラインぎりぎりの際どい場所で弾んだ。

シャトルが落ちたのは白線の内側で桃田の得点との判定に対し、田中はチャレンジを要求。場内には心臓音をイメージさせる効果サウンドが、どっくんどっくん、どっくんどっくんと響く。それに合わせたファンの手拍子も鳴るが、ビデオ判定に時間を要しているのか、結果はなかなか出ない。待ちくたびれたファンの手拍子が消えたあとも、まだまだ判定は続く…。

長い待機時間のあと、ようやく場内ビジョンに映されたのは“判定不能”を意味する「No Decision」のアルファベット文字。あまり見かけられない展開に田中は主審の近くへと歩み寄り、桃田も説明を求めたが、ここからさらなる珍現象が繰り広げられた。

何らかの理由でビデオ判定ができなかった場合、審判が当初下した判定でスコアがカウントされる。この場合は桃田に得点が入って18-13となるはずだが、場内スコアは田中に加点されて17-14の表示に。さらにはなぜか田中にもう1点まで加算されて17-15の表示にもなり、場内はどよめいた。競技役員とおぼしきスタッフが主審のもとに駆け寄るなどドタバタした風景が展開される中で、結局は桃田に1点が加わり18-13のスコアで試合が再開された。

この間、状況や事態を説明する場内アナウンスは一切なし。何が起きてどうなったのか、観客の存在は置き去りにされたままで進んだ。

状況を把握していなかったのはファンだけではなかった。試合後、報道陣から審判(日本人)とのやりとりを尋ねられた桃田は「いや、自分もよく聞き取れなかった。たぶん、ずっと英語を言っていて…」と困惑の表情で打ち明ける。

シャトルが落ちたのはラインの内側だったのか外側だったのか。当事者であるはずの選手でさえ、何度尋ねても明瞭な答えは返ってこなかった模様。「自分も田中もすごく話しかけていたんですけど、何も聞き入れてもらえなかった。何していいかわからず…5分くらいたっていた」と首をひねった。

いったんは田中にスコアが加わったシーンについては、「相手に1点入ったなと思ったら、もう1点加算されて。それはおかしいだろうと」。苦笑いで振り返った。

報道陣から「『ノー・ディシジョン』は人生で初めてか」と聞かれた桃田は、「ノー・ディシジョン?」と逆質問。チャレンジが判定不能になっていたことについて知らされると、「ああ、そういうことなんですか」。ようやく納得顔を浮かべたあと、「初めてです」とうなずいた。

試合は水入り後も気持ちを切らさず得点を重ねた桃田が第2ゲームを取り、最終ゲームも制して決勝へと進んだ。【奥岡幹浩】