ラグビー日本代表で“笑わない男”として知られるプロップ稲垣啓太(33=埼玉パナソニックワイルドナイツ)が、走って、ゴミを拾いながら渋谷と原宿を往復した。
「あれ? ラグビーの…」
5日午後7時半、通りがかった一般人が振り向きながら驚いた。
公式サイズは身長186センチ、体重116キロ。
9月開幕のフランス大会でW杯3大会連続出場が懸かる日本の大黒柱は、半袖半ズボンに手袋姿だった。
稲垣は周囲の驚く声をよそに参加者と「今日初の缶!」などと楽しみながら走り、道端に落ちたゴミを袋に集めていった。
当初は渋谷周辺の約1キロを予定。だが、自ら志願して距離を伸ばし、JR原宿駅でターン。渋谷まで戻り、気づけば走行距離は約3・5キロとなっていた。
今回のランニングは6月1~12日に行われている活動「adidas MOVE FOR THE PLANET」の一環だった。
「アディダスランニングアプリ」で設定された34種類のアクティビティをいずれか10分間行うたび、アディダスが未来のスポーツ環境を守るために1ユーロを寄付するプロジェクト。稲垣は渋谷・宮下公園の同社店舗で「一日店長」を務め、その流れで外に飛び出した。
参加者とコミュニケーションを取りながら数時間を過ごし、まずは直接ふれあえる機会を喜んだ。
「こういう(コロナ禍前の)日常が戻ってきたのは、素直にうれしいですね。こういったことをきっかけにラグビーや自分自身に対して、何かを感じてもらえたらうれしいです。こういうことができる世の中になってきたというのが、まずはうれしいですよね」
環境に対しての意識は「大きな枠で見ちゃいますよね。『地球のために何かを…』となると、みんな抵抗があると思うんです」と口にし、自身の日常的な取り組みを紹介した。
「例えば買い物に行く時にエコバッグを持っていくか、持っていかないのか。僕は持って、買い物に行きます。『エコバッグだけじゃないですか』と言われても『いや、じゃあ、エコバッグやっていますか?』となる。そういう(小さい取り組みをする)人間が10人、100人、1000人、1万人…と増えてきたら違う。1人1人ができることは限られていると思うので、こういうマインドを持つ人を、どれだけ増やすことができるかだと思います」
10分間の運動で環境を守ることにつながるプロジェクト。稲垣は言い切った。
「僕だったら野球をやりたいです。家にバットがある。それを使って、素振りをしたり、ストレッチをしたり…。例えば朝イチにトレーニングをする。10分だから息は上がらなかったけれど、楽しみながらトレーニングをして、なおかつ、その行動が地球のためになった。それだけですごくいいスタートを切れて、1日いいイメージで過ごせそうじゃないですか。僕だったら、過ごせると思います」
想定以上の距離を走り、ゴミを拾い、その背中で思いを体現した。【松本航】