フィギュアスケート元世界女王の安藤美姫(25=新横浜プリンスクラブ)が6日、出産を公表後初の公の舞台に立った。福岡マリンメッセで開催された「ファンタジー・オン・アイス」で2つの演目を披露した。1日のテレビ番組で、4月に第1子となる女児を出産した衝撃告白をしてから5日。得意の3回転サルコーで転倒するなど、ママさんスケーターとしてソチ五輪を目指すことの難しさを感じさせたが、大きな声援に笑みものぞいた。

 「数々のナンバーから、迷わずに選んだのはこの曲でした。自らを重ね合わせながら、思いとともに伝えます」。場内アナウンスに紹介され、この日1番の歓声を受けながら氷上に立った安藤。スポットライトを浴び、流れ始めた曲は「ママへ」。ゲスト出演する歌手AIの生歌をバックに、出産を公表後、初めてとなる観客の前でのプログラムを滑りだした。

 青が基調のパレオ風衣装が、風になびく。「ママ

 生んでくれて感謝しているよ

 いつもありがとう」。母への愛を歌う歌詞に乗り、心境を表現する。母になったことで、自らの母に感謝する気持ちがあふれたのだろう。演技の終わりに目を閉じると、大きな拍手に包まれた。「スケーター安藤美姫」が開く新境地を体現するようだった。

 同時に、その進む道の険しさも感じさせた。演技に組み込まれたジャンプは3回転サルコーのみ。かつては女子選手で唯一の4回転にも成功した代名詞だが、序盤の跳躍は尻もちをつく転倒に終わった。

 出産の影響で筋力が低下し、これまで熱心でなかった筋力トレーニングも続けている。5月に練習を再開して2カ月。既に3回転ジャンプに挑戦していること自体は驚異だが、目指すのは来年2月のソチ五輪。残り時間を考えれば、求められるのは「挑戦」でなく「成功」だろう。

 「アメージング・グレース」の曲で滑った、ショー後半の2つ目のプログラムでは、3回転サルコーを決めた。6月下旬のショーでは、計4本中2本の成功。確率50%が現状だが、ショー用のプログラムと試合用では、演技構成には大きな差があり、より体力も必要になる。復帰戦となる関東選手権(10月11~14日、埼玉)へ、挑戦していない他5種類のジャンプも完成度を上げなければならない。

 決意を持ち臨む現役最後のシーズン。女児の父親の名前を明かさないことで、周囲も騒動となっているが、この日も取材に答える機会はなかった。今は氷上だけに集中し、スケーターであり母であることを続けていく。【阿部健吾】