黒沢尻工(岩手)が静岡聖光学院を17-12で下し、東北勢で唯一初戦を突破した。前半7分にFB手束勇陽(3年)の60メートル独走トライで先制。後半20分に同点とされるも、25分に「赤べこ軍団」伝統のドライビングモールで押し込み、フランカー北田卓寛(3年)が決勝トライを決めた。来年1月1日の3回戦で常翔学園(大阪)と対戦する。

試合を決めたのは「赤べこ軍団」の遺伝子だった。同点とされて迎えた後半25分、「最後は意地を見せてくれ!」とFW陣にBK陣からゲキが飛ぶ。インゴールまで距離がある22メートルラインから、あえてモールで攻めた。強烈に押し込まれ、腰が浮いた静岡聖光学院のスキをついたフランカー北田がトライを決めた。

前半7分に、CTB手束の独走トライで幸先のいいスタートを切ったが、その後はFW陣にミスが続いた。相手のハイパント攻撃への対応も遅れ、攻撃ではノックオンなどの反則が目立った。東北勢5校が全て姿を消す中、シード校として迎えた初戦。プレッシャーも当然だったが、全都道府県からの出場が始まった64回大会から、東北勢が34年間続けてきた初戦突破の伝統をなんとか守ってみせた。

11月下旬には花園に出場する東北の代表6校が岩手・北上に集まり、総当たりで練習試合を行い士気を高めた。6月の東北総体の王者として、同志のためにも負けられない試合だった、CTB佐藤稜真主将(3年)は「今日は勝ったけどミスが多くて悔しい試合。東北勢としてなんとか勝ちきれたのだけはよかった」と勝利にも厳しい表情を見せた。30回目の出場で通算40勝を達成した伊藤卓監督(44)も「後味の悪い40勝ですけど、なんとか東北勢として勝ててよかったです」と辛勝に苦笑いを見せた。

目標のベスト8をかけて戦う相手は優勝5回を誇る強豪常翔学園だ。伊藤監督は「強いです。でも今日の静岡聖光学院さんのように、あわやというところを見せなければいけないと思う」と金星を狙う。先制トライの手束は「僕らはチャレンジャーとしていい試合にしたい」と意気込んだ。ノーサイドの瞬間も、全く笑顔のなかったフィフティーンが、気持ちを新たに元日決戦に挑む。【野上伸悟】

◆赤べこ軍団 黒沢尻工は1964年度の44回大会に初出場しいきなり4強。その後も55、57、58回大会で準決勝進出、58回大会では国学院久我山に敗れるも準優勝の快挙をなしとげた。伝統の黒地に赤のラインのジャージー、FW陣がじわじわと、ごりごり力強く進んでいく姿に、いつしか関西方面のファンから「赤べこ軍団」と呼ばれるようになった。チームのシンボルも赤い牛になっている。