ラグビーW杯フランス大会を1次リーグ2勝2敗で終え、日本代表選手は各所属で12月9日のリーグワン開幕に備えている。
ラグビー界最大の舞台を目指して、努力を重ねた日本代表選手の思いに迫る3回連載。最終回は6月の千葉・浦安合宿で代表初招集を受けたものの、故障と体調不良でW杯には届かなかったWTB木田晴斗(24=クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が思いを語った。
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あれは、まだ暑さの残る8月31日のことだった。
千葉・船橋市内にある東京ベイの練習場。夕日が差し込むグラウンドは活気に満ちていた。15人対15人で体を当てる仲間を横目に、木田は黙々とタッチライン際を往復した。1歩ずつ丁寧に足を踏み出し、腰を沈めながら、動きを確認していく。目線はぶれず、真っすぐ、前へと向いていた。
「もちろん、これから始まるW杯は大きいものですし『自分も出たい』と思う気持ちは間違いないです。特別な舞台だと思います。でも、人生で考えた時に『これもいい経験になるはずだ』と感じます。『もう1年、頑張れ』と言われた気がしました」
社会人2年目の24歳。注目と期待は大きかった。
5月に閉幕したリーグワンではリーグ2位の16トライを記録。プレーオフでも決勝の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦で逆転トライを挙げた。チームは戦前の予想を覆して初優勝。その中心で輝き、ベストフィフティーンに選出された。
そのポテンシャルは、日本代表首脳陣の目にも留まっていた。6月の浦安合宿で初招集。3カ月後のW杯へ期待も高まった。その裏で木田はシーズン終盤から疲労がたまり、右足首周辺に痛みを抱えていた。日本代表のメディカルスタッフとも情報交換をしながら、代表合宿の初日を迎えた。
「体のバランスが整う前に動いてしまったところはありました。想像以上に長引いてしまっていました」
アピールが求められる代表合宿。だが、全体練習に入れない日が続いた。途中で合流したが、再び離脱。もどかしい日々が続いた。
「痛い場所がなければ、やれる自信もありました。でも、痛いところがあると、自分はパフォーマンスが一気に落ちてしまう。時間が無限にあるわけではないし、難しかったです」
7月から5週連続で組み込まれていた代表戦。その終盤に照準を合わせていた。だが、思い通りにいかない。7月の宮崎合宿ではウイルスに侵されて発熱。離脱を余儀なくされた。合宿で仲間と切磋琢磨(せっさたくま)し、高いレベルで戦う自信はあった。それだけに失望感は大きかった。
「周りに『ジャパンは違う』と言われていましたが、僕自身は『本当にそうかな?』と思って臨んでいました。リーグワンでも海外のスーパースターがいて、その中でもやれている自信があった。『体が戻ったらいけるだろう』とも思っていました。その先、試合に出てからは経験したことがないので別ですが、競争という部分では代表に行ってからも自信がありました」
もちろん、置かれていた立場は分かっている。
「それは自分の自信であって『ジェイミー(・ジョセフ・ヘッドコーチ)やコーチ陣に、練習から証明しないといけない』というのも分かっていました。『早く練習したい』という気持ちはあって、それを求められているのも理解していますし、焦ってはいました」
経験豊富なフランカーのリーチ・マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)ら先輩は「焦らず、ゆっくり治していった方がいい」と声をかけてくれた。もどかしい状況が続き、試合までの時間だけが過ぎていった。
代表選手にW杯の当落が伝えられたのは8月5日、フィジー戦後のロッカールームだった。宮崎合宿を離脱した木田は、その場にはいなかった。兵庫県の実家に戻って心を切り替えた。故障し、自分自身と向き合って学べたこともあった。
「課題を直せば、さらにいい選手になれると思っています。1対1のディフェンスのドミネート(相手を支配する)タックル。ハイボールのキャッチの精度も、まだ上げられると思います。体を作れば、まだスピードも上がると思います」
日本代表合宿では緊張もあった。その中でレベルを知り、そこで競争を勝ち抜くイメージもできた。まだ桜のジャージーは着ることができていない。それでも日本最高峰のチームを経験した財産は今後に生きる。
「4年後のW杯は正直、今はまだ見ていません。まずは来年(6月)のイングランド戦に11番で出る。クボタ(東京ベイ)で11番で出続けて、もう1度優勝することも目標です。努力し続けることは、絶対に大事。そこは小さいころから親にも言われてきました。昨季活躍したことで、周りには『満足しているんじゃないか?』と心配している人もいると思います。でも僕が今まで送ってきた人生、いい言い方をすれば、DNAは満足することがないです。それは言い切れます」
小学4年生の頃、極真空手の世界ジュニア選手権で頂点に立った。成長を追い求め続けることは、木田の頭と体に染み付いている。
2連覇を目指す東京ベイの初戦は12月10日、複数のW杯代表選手を擁する東京サントリーサンゴリアス戦(東京・秩父宮ラグビー場)となる。2024年の目標へ、大きく跳び上がる準備を続ける。【松本航】




