<柔道:世界選手権>◇11日◇女子57キロ級◇東京・代々木第1体育館

 メモリアル「金」だ!!

 女子57キロ級で松本薫(23=フォーリーフジャパン)が、日本の世界選手権男女通算100個目の金メダルを獲得した。モンテイロ(ポルトガル)との決勝は延長までもつれたが、最後は小外刈りで1本勝ち。23歳の誕生日を飾った。同階級で五輪を含め、日本勢初の世界大会制覇となった。

 攻めて、攻めて、攻めまくる。松本の真骨頂が発揮された決勝戦だった。足を飛ばして相手の体勢を崩し、得意の寝技に持ち込む。規定の5分間でポイントは奪えなかったが、延長2分39秒、疲れ切った表情のモンテイロから小外刈りで1本。勝ち名乗りを受けると、ホッとしたような表情を浮かべた。23歳の誕生日に、日本勢通算100個目の金メダルを獲得した。

 松本

 (100個目は)ラッキーでしたね。最高の誕生日になりました。

 表彰式後は外国選手に囲まれ「ハッピーバースデー」の大合唱で祝福された。今年は出場した国際大会5試合をすべて制覇、25連勝で初の世界女王となった。

 悔しさをバネにした。昨年の世界選手権は準決勝で右手甲を骨折。激痛に耐えられず、敗れた。3位決定戦は14秒で敗退。痛みでシャワーを浴びながら涙した。1年が過ぎ、10日には浴室で当時を思い出した。「去年もシャワー浴びて泣いてたなって。自分としてリベンジだった」。

 技が切れるタイプではない。スタミナを武器に激しく動き回り、野獣のように相手を追い込む“肉食系”。日本柔道の本流とは一線を画す。所属するフォーリーフジャパン監督で、元世界選手権覇者の津沢寿志氏(62)は「天才的な攻撃型。相手は後半に疲れてしまう。(試合時間5分のうち)3分間過ぎたら、安心してみていられる」と評する。

 母恵美子さん(50)の何げないつぶやきが、松本の柔道を進化させた。石川・味噌蔵町小6年の時、左腕を骨折。その3カ月後、回復後の初試合で、母の目には、娘の動きがいつもより鈍いように見えた。試合後、恵美子さんは「ゴキブリみたい…」とポツリ。これにショックを受けた松本は、いっそう練習に打ち込むようになった。

 昨年まであの「世界の山下」こと山下泰裕氏(53)の存在を知らなかったほど。畳を降りると天然キャラで知られる。この日の優勝後も何がしたいかと聞かれ「アイスが食べたい」と周囲をなごませた。

 外国勢の層が厚い階級で、研究されながらも、世界ランク1位の貫禄(かんろく)を示したことに価値がある。「目標は五輪の金。だいぶつながったと思う」。このままロンドンまで突っ走りたい。【大池和幸】