「コンビネーションの息が合った時は、いいピッチングができる。とよく言われますが、今日は岡崎さんが引っ張ってくれたんですけど、息はうまく合っていました。ストレートひとつにしても、意識してファウルを打たせることができましたし、バッターを追い込んで勝負できたのも完投につながったと思います。力で勝負することができましたし、プロ入りしてから14試合目の登板ですが、今までで一番いいピッチングができました」

 ウエスタン・リーグ公式戦。優勝争いをしている好調中日からの初完投勝利。それも、高卒の新人でありながら阪神では112試合消化して、守屋に次いで2人目というから大したもの。注目している投手に取材している目の前でいいピッチングをされると、何故か血が騒ぐ。話を聞いてみたくなる。そして、その会話の中で将来の期待が持てる。楽しみな話が出てくるなら、なおさら原稿が書きたくなる。阪神の高卒ルーキー望月惇志(19)である。このコーナー何回目かなあ……。まあ、いいや。飛びついて手繰り寄せた話は初完投勝利ではない。これだ。

 「福原さんとよくキャッチボールをさせていただくんですが、その時の福原さんの体の動きとか、腰の使い方などを見ていると“なるほど”と思うことがよくあるんです。だから、そういう動きは取り入れることにしています。本当、いい勉強をさせていただいていますし、ありがたいです」

 一般の人にはピンとこない話かもしれないが、厳しいプロの世界で生き抜くための“力”をつける方策に「自分から進んで先輩や、一流選手のワザを盗む」ことがあり「キャッチボールをおろそかにしない」の言い伝えがある。私が在籍していた当時の阪神は、投手王国と言われていた。柱として小山正明さん、故・村山実さんの両輪がいて、よくピッチングを見させていただいた。プレートの踏み方にはじまり、体のためから、移動して投げるまでの腰の使い方、膝の使い方。そして上、下半身のバランスの取り方等々だが、せっかくの素晴らしい試みも実際に自らが進んでその気になって実行しないと吸収力は半減して、無駄骨に終わるケースが多い。

 キャッチボール--。野球の基本である。チームプレーの出発点。きっちりできないようではプロ野球の選手にはなれない。相手が次のプレーに移りやすい、いい球を投げてやるのが味方選手への気遣いであり、思いやりで、これがひいてはチームプレーとなる。ピッチャーには別の要素がある。遊び心からくる変化球のマスターである。球の握りをいろいろ変えて試しているうちに、球がスライドしたり、シュートしたり、落ちたりする。それをヒントに自分の持ち球にしていく。私にはその能力すらなかったが、現実に実行しているピッチャーは多い。

 望月はどうだろう。先輩のワザを盗むことはすでに実行している。キャッチボールについて聞いてみた。「結構やっていますし、面白いですよ。まだ完全に自分の持ち球にするところまでには至っていませんが、そのうちに……」この若さで自分から意識して実行している向上心に意義がある。前向きの姿勢は将来のエース候補。頼もしいのはこの日最終回でも150キロが出ていた球速。体、肩ともにスタミナは十分。投球内容は9回、117球、被安打3、奪三振6、与四球3、失点、自責点1。「ピックオフプレーなど、まだやることはたくさんありますが、何事も貪欲に吸収していきます」何事にも積極的に取り組むモチベーションがプロ向きだ。

 久保ピッチングコーチ「まだまだですね。山あり、谷あり。いい時と悪い時の繰り返しです。でも、今日みたいなピッチングができるわけですから、それだけの力は持っているということです」立場上期待半分、不安半分といったところか。

 掛布監督は「1軍の順位が決まれば一度投げさせたい候補の1人です」と語った。注目の星。楽しみに待つことにした。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)