元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。2016年最後のコラムとなる30回目は「今季の反省、来季の修正点とイチ押し選手~セ・リーグ編」です。

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 セ・リーグ25年ぶり制覇の広島で幕を閉じた今シーズン、来季、他球団の巻き返しはどうなるのか。

 今季の各球団の反省、修正点など振り返りつつ、イチ押し選手を挙げてみた。今回はセ・リーグ編。

【広島】

 黒田投手が引退して穴が開いたことが一番の不安要素だ。10勝を挙げた実力もさることながら、精神的支柱としてチームを鼓舞し続けたベテランの穴を埋められる選手は、現段階では厳しいかも知れない。

 16勝で最多勝と最高勝率(8割4分2厘)の野村、15勝のジョンソンは2桁を計算できる。しかし、2人を除けば先発陣の層はちょっぴり薄い。日本シリーズでジョンソンを中4日登板させたことからもわかる。九里(先発10、2勝2敗、防御率4・50)福井(先発13、5勝4敗、防御率4・34)岡田(先発15、4勝3敗、防御率3・02)中村恭(先発8、1勝1敗、防御率5・40)ら若手が先発ローテに軒並み食い込んでこなければ連覇への道のりは容易ではないだろう。

 マエケンがメジャー移籍した後、穴を埋めたのは最多勝右腕の野村だった。2015年5勝8敗から今季16勝3敗と大ブレーク。計算上は1人で貯金13をチームにもたらし「マエケンロス」を感じさせなかった。野手陣は若い世代で特に不安は見当たらない。「黒田の穴」をどう埋めるかに尽きる。

<イチ押し>

 黒田投手の代わりを務めるなら、大瀬良だろう。来季は先発復帰の報道もあった。2014年のルーキーイヤーに先発で26試合登板し10勝8敗。新人王を獲得した。右肘の靱帯(じんたい)を痛め、今季は満足いくシーズンではなかっただろうが、日本シリーズではマウンドに立ち元気な姿を見せた。けがさえなければ2桁は期待できる。大瀬良が本来の実力を発揮すれば、リーグ連覇の可能性もグッと高まるだろう。

 野手では堂林に期待している。今季47試合出場で打率2割5分、2本塁打に終わったが2012年には14本塁打を放った右の中距離砲。三塁手争いでは安部(115試合出場、打率2割8分2厘、6本塁打、33打点、7盗塁)が今季頑張ったが、堂林が伸びてくれば、三塁を含め野手陣にも厚みがでるだろう。

【巨人】

 FA補強、トレードなどで全ての弱点をカバリングした。山口俊、吉川が先発陣に、中堅を守れる陽の加入でセンターラインに厚みが出た。9年連続60試合以上に登板している山口鉄に頼りっぱなしだった中継ぎ左腕に森福が加わり、山口鉄も肉体的により充実した状態で登板できる。元楽天ケーシー・マギーも獲得し、村田、岡本の三塁手争奪戦も激化したのは首脳陣にとっては歓迎だろう。補強に関してフロントは最高の仕事をした。

<イチ押し>

 小林誠司に注目したい。先発を含め豪華メンバーがそろう投手陣をどうリードするのか。さらに、バットでも結果を残してほしい。捕手のポジションは相手の研究や配球など膨大な「守りの準備」に追われることは捕手出身の私もよく分かっている。今季の打率は2割4厘だが、新人年の2割5分5厘から右肩下がりだ。野村克也氏、古田氏、谷繁氏、城島氏、阿部慎之助ら打って守れる捕手は存在した。やってやれないことはない。

【DeNA】

 勝ち頭(11勝)の山口俊が抜けた穴は痛い。代役をどうするか。外国人投手を獲得できるか、チーム内の投手でカバー可能か。普通に考えれば開幕投手を務めた井納が大黒柱になれるか。2014年は11勝をマーク、今季7勝11敗だったが、勝敗数が逆でも不思議ではない。石田も9勝、今永も8勝を挙げており、若手2人にブレーク気配も漂うだけに井納が計算できれば3本柱を形成できる。

 打線は「マシンガン打線」復活の気配が漂う。44本塁打、110打点で2冠の筒香を筆頭に34本塁打のロペス、梶谷と主軸は健在。さらに桑原(打率2割8分4厘、11本塁打)倉本(打率2割9分4厘)宮崎(打率2割9分1厘、11本塁打)と若手も順調に育っている。

<イチ押し>

 熊原に期待している。今季は18試合に登板(先発3、リリーフ15)し1勝1敗、防御率4・97ともうひとつだった。しかし、投げっぷりといい、球の勢いといい、ブレークの可能性を感じさせてくれた。2015年ドラフト2位の好素材。29イニング16四死球は気になるが、制球に磨きがかかれば面白い。

【阪神】

 今季キャプテンを務めた鳥谷が不調だった。チーム的にもまとまりを欠いた。シーズン序盤は足を使った攻撃を見せ「新生阪神」を期待させたが、徐々に機動力も目立たなくなり、チームも失速した。来季は盗塁王の糸井が加入し、好投手でも足でかき回し、得点をもぎ取る攻撃オプションも増える。ゴメスの退団で一塁手を誰が守るか気になるが、外野の定位置争いは激しい。糸井、福留、高山の強力布陣に、若手の有望株、江越、横田、中谷らがしのぎを削る。野手は内外野ともに割と層も厚く心配していない。

 課題は中継ぎ以降の投手整備に尽きる。逆転勝ち24回に対し、逆転負けが30回。1点リードで19回ひっくり返され、2点リードでも9回の悪夢を見た(ちなみに優勝した広島は逆転勝ち45回、逆転負け26回)。

<イチ押し>

 鳥谷が鍵だ。打率3割前後で鳥谷が復活してくれば阪神は強い。鳥谷、北條で二遊間を組めれば理想的だ。来季36歳だが、チーム内には39歳で打率3割超の福留もいる。いい刺激にしてほしい。

【ヤクルト】

 打線はすさまじい。新加入の坂口も打率2割9分5厘と奮闘した。今季は川端、畠山、山田らけがも多かったが、本来の実力を発揮すれば問題ない。

 問題は投手陣。エース小川も8勝どまりで2桁投手ゼロ。優勝した2015年には中継ぎ陣にオンドルセク、ロマン、バーネットらが活躍した。先発からリリーフ含め投手陣全般の整備ができるか。

<イチ押し>

 成瀬に期待したい。先発枠に食い込んでこれれば先発陣も安定感が出る。今季22試合に登板(先発10)し3勝2敗、防御率5・60は本人が一番悔しい思いをしているだろう。来年32歳を秋に迎えるが、老け込むにはまだまだ早い。ロッテからFA移籍し3年契約を結んだ左腕も来季が契約最終年。結果を出せねば戦力外か、大減俸か。ストレートにキレさえ戻れば2桁勝てる力はある。

【中日】

 大島と平田が残留したのは大きかった。FA移籍されていたら終わっていた。

 かつての中日は投手王国のイメージだった。しかし、今季は規定投球回数を満たした投手がゼロ、大野の7勝がチーム最高だった。どこが悪いではなく、全ての部分で改善、底上げが必要だ。2010年、翌11年はリーグ制覇したが、当時主力だった井端、和田、谷繁氏らが引退。荒木、森野、岩瀬らも大ベテランの域に入り、世代交代がうまくいかず現状に陥った。世代交代はどのチームでも難しいが、今季は若手に貴重な経験を積ませた結果となった。暗い話題ばかりではない。20歳代のイキのいい選手も芽を出し始めた。大野、若松が7勝、田島は守護神「タジマジン」でブレーク、野手も福田、杉山が成長している。投手王国復活なら面白い。

<イチ押し>

 投手では小笠原。今季15試合に登板(先発12)で2勝6敗、防御率3・36に終わったが、リードしながら降板後に逆転される試合もあったため数字以上の印象がある。ただ剛速球左腕から変化球を駆使した投球が目についた。変化球に頼ることはベテランになってからでもできる。いけるうちはストレートを磨ききってほしい。

 野手では堂上、高橋周の2人。堂上はキャリアハイとなる131試合に出場し打率2割5分4厘。高橋も自身最多の75試合に出場した。堂上が来季11年目、高橋が6年目。そろそろチームの顔に名乗りを上げてほしい。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)