「元気ですよ。でも、自分の中では悔しい思いがありますね」
そう話してくれたのは常総学院の鈴木昭汰君(投手・3年)でした。
常総学院では1年秋からエースとしてマウンドに上がり、昨年春のセンバツでは先発で2勝をあげ一躍「プロ注目」に。今年春のセンバツでは初戦敗退も、夏の甲子園ではベスト8進出と、その期待に応える活躍を見せてくれた鈴木君。周囲の誰もがプロ志望届を提出すると思っていました。ところが、ドラフト直前に大学進学を表明。
「甲子園が終わって、1カ月くらいかな。ギリギリまで悩んで大学進学を決めました」
おそらく…志望届を出せば、下位でも指名はあったはず。しかも、ずっと目指していたプロ野球の舞台。
「一番の理由は、今年の夏の甲子園の結果。しょせん、ベスト8なんだ…ってね。もちろん、あそこまで勝てたことはうれしい。でも、その反面、本当に悔しくって…」
「全国制覇」だけを見つめて走り続けてきた2年半。なぜ達成できなかったのか。甲子園が終わった後、それを考え続けた日々でした。
「プロはアマチュア時代の結果もそうですが、それよりもポテンシャルがどれだけ高いか。自分は体も小さいし。もう一度しっかり鍛えて、体を強くしないと通用しないとのではないかと思ったんです」
自問自答を続ける中、知人の言葉が鈴木君の背中を後押ししました。
「先が補償されないプロの世界。焦る必要はなんじゃないか。プロで活躍するためを考えたら、もっと成長してからでもいいんじゃいか」
-プロで活躍するために-
この言葉に、ハッと我に返りました。自分の目標は何だったのか。いつの間にか、プロに入りたいとだけしか考えていなかった。本当は違う。目標はプロで活躍すること。それならば、もっと成長してプロで活躍できる自分になってからもう一度志望届を出したい。そう、気持ちが決まりました。
●打者を圧倒する力をつけたい
現役が終わってからも、大学に向け毎日、トレーニングとフォームの修正に励んでいます。もう、4年後の勝負は始まっているのです。
「140キロ台後半を連発して、キレのいいスライダーで三振! クレバーでかつ怪腕と言われるようになりたい。それが自分の完成像。もう想像はついています」
今年の夏の甲子園。悔しさが残るのは、優勝できなかったことだけではありませんでした。
3回戦の履正社戦では8回をのぞき、毎回走者を出しましたが、20本の凡打の山を築き完投勝利(7対4)。この粘りのピッチングでの勝利も、実は心の底ではうれしくありませんでした。
「このピッチングは、自分の理想ではないんです。打たれ強いっていう印象で勝ったと思うんです。でも、本当は三振で抑えて勝ちたいんです」
どんな形でもあれ、チームを勝利に導くことがエース、という人もいるでしょう。でも、完璧を目指す鈴木君は違います。自分の理想とするピッチングを貫いて勝つ。これが、理想のエース像。それができなかった夏。
「だから…プロはまだ行けないな~って思うんです」
誰よりも負けず嫌いで、我が強くて完璧主義者。でも、本当はチームメートのことを誰よりも思っている優しい性格。だからこそ、この夏はチームが勝つことを優先。そのためのピッチングに徹してくれました。
心の底で理想のピッチングと葛藤していたんですね。
今のピッチングを評価されるのではなく、理想とするピッチャーに成長してプロの世界へ。その時こそ、本当に自信をもってプロの門をたたけるのでしょうね。ウン、それって鈴木君らしいね。
来年春からは、法政大へ。4年後、どんな冬を迎えているのか。楽しみだなぁ。