10日にKoboスタジアムで開幕した宮城大会。昨夏は甲子園で仙台育英が準優勝し、東北初の全国制覇、「白河の関越え」へあと1勝に迫る活躍を見せました。「次こそ俺たちの手で!」と燃えている宮城球児たちの“ワクワク、ドキドキ”な話題を、宮城在住のスポーツライター・樫本ゆきが大会中ランダムにお届けします。

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 「宣誓-。今年4月、またしても大きな地震が起こりました。5年前を経験する私たちにとっては、決して他人ごとではありません…。(略)野球を通じて、同じ思いを共有する仲間がどれだけ、逆境に立ち向かう時に大きな存在であるかを知っています」

10日に行われた宮城大会開会式で選手宣誓を行い、Koboスタジアムの観客から大きな拍手を受けた黒川・高橋伽維(かい)主将。冒頭で熊本地震に触れ「共有」という言葉を使って思いを伝えました。過去の宣誓をYouTubeで調べたり、お風呂で発声を練習した甲斐があり「1度もかまずに言えた。100点です!」と自画自賛。「これで試合に向けて気持ちが集中できます」とホッとした表情を見せていました。

 宣誓に入れるかどうしようか。最後まで悩んだ一文がありました。

 それは、昨年9月に関東・東北を襲った豪雨による水害被害のことでした。黒川のある黒川郡大和(たいわ)町は218棟の家屋が浸水。黒川のグラウンドも高さ2mまで雨水がたまり、軽トラックが水没したり、監督室のプレハブ小屋が流されるなどの被害を受けました。翌日に水は引いたものの、川から流れてきた泥や、汚物で一帯は手が付けられない不衛生な状態。大切な木製バットやボールも浸水し使えなくなりました。野球どころではない惨状…。しかし高橋君は、この後の出来事に大きな驚きを受けたと言います。

 「1週間もたたないうちに、全国からボールや野球道具がどんどん学校に届いたんです。福岡県って書いてある新球もありました」。道具だけではありません。9月末には小原仁史監督(53)の前任校、利府の3年生部員と保護者が長靴を履いてグラウンド周辺の洗浄に来てくれました。その数は約50人! 利府時代に09年センバツ4強を果たした小原監督は「みるみる片付いていき、人の力の大きさと、温かさに感動しました」と振り返ります。宣誓文を作る際、高橋君は小原監督と相談し「水害のことは個人的なこと」と判断し、割愛することにしました。「それよりも、試合で勝って、ニュースが全国にいる支援してくれた人に伝わることで、恩返しにしたい」と思ったからです。知らない町名や、会ったこともない人たちから届いた、たくさんの支援の品。つらい思いを「共有」してくれた人が日本のどこかで応援してくれている。「今年は特別な夏になる」と高橋君は言います。部員23人。一丸となって、14日(木)の初戦(対仙台南)に挑みます。【樫本ゆき】

 ◆樫本ゆき(かしもと・ゆき)1973年(昭48)2月9日、千葉県生まれ。94年日刊スポーツ出版社入社。編集記者として雑誌「輝け甲子園の星」、「プロ野球ai」に携わり99年よりフリー。九州、関東での取材活動を経て14年秋から宮城に転居。東北の高校野球の取材を行っている。