<阪神2-4中日>◇13日◇甲子園

 不惑の男の勲章だ。中日谷繁元信捕手(40)がメモリアル弾で勝利を決めた。2点リードの7回、プロ入りから23年連続本塁打となる今季1号2ランを左翼席にたたき込んだ。22年連続で並んでいた王貞治氏(70=現ソフトバンク会長)を超え、新人からは歴代トップタイ。通算211本は決してホームラン打者ではない。常に勝利を追求してきた「一捕手」らしい勝負どころでの1発だった。

 メモリアル弾は谷繁らしい勝負どころで飛び出した。2点リードの7回1死一塁、久保田の145キロ直球をたたきつぶした。「(久保田は)真っすぐが速いんで真っすぐだけ待っていたら当たった」。打球は左翼席最前列に飛び込む今季1号。ライバル阪神を突き放し、勝利を決定づけた。

 プロ入りから23年連続本塁打は並んでいた王氏を抜き、新人からは門田氏、張本氏に並ぶプロ野球タイ記録。世界の王はもとより、周囲はすべて500本以上打っているホームラン打者。通算211本の谷繁のランクインは異彩を放つ。「すごいねえ。でも、まわりはみんな500本打っている打者で、こっちは200本そこそこしか打っていないんだから。たまたまだよ」と照れ笑いしながら認めた。

 打者というより、傑出した一捕手としての勲章だ。シーズンの目標を問われると常にこう言う。「個人成績なんてどうでもいい。捕手っていうのは勝って初めて評価されるポジション。オレが1本も打てなくても、チームが優勝すればそれでいい」。新人時代は他の捕手と併用されていた。一瞬でも気を抜いたり、故障すればポジションを奪われる。その恐怖心が正捕手への執着心を育てた。本塁打を打ったからすごいのではない。この記録は23年もの間、捕手として第一線に立ち続けている証明でもある。

 41歳になる今季、1つのハードルがあった。「飛ばない」と言われる統一球の導入だ。だが、ベテランへの影響を不安視する周囲に反発した。「飛ばないなら鍛えればいい。そのボールでやるのが仕事なんだから、泣き言を言うやつは辞めた方がいいんだ!」。真っ向からフルスイングした結果、打球はフェンスを越えた。今年も第一線に立っていることの証しだった。

 新人からという条件を外しても、もう上には25年連続の野村克也氏しかいない。しかし自分の足元を見つめるように、こう言い切った。「この間、ネルソンに勝ちをつけてやれなかったらあいつが勝てたことがうれしい。これからも自分のスタイルを変えずにやっていくよ」。生涯一捕手を誓う男の姿勢はまったくぶれていなかった。【鈴木忠平】