<日本シリーズ第1戦:ソフトバンク1-2中日>◇第1戦◇12日◇福岡ヤフードーム

 有終の日本一を目指す中日落合博満監督(57)が最高のスタートを切った。1-1で延長戦に突入。スタメンに抜てきしていた伏兵・小池正晃外野手(31)が延長10回に決勝弾を放ち、逆転勝ちした。投手陣が踏んばって接戦をものにする「落合野球」で、ヤフードームでの連敗を9でストップ。敵地での開幕戦で先手を取った。

 まさかの、いや、思惑通りの一撃だった。延長10回2死走者なし。小池がソフトバンクの守護神・馬原を打ち砕いた。追い込まれた後のフォークを完璧にとらえた。左翼へのシリーズ初本塁打が決勝弾となった。

 「その前に同じ球でひどい空振りをした。だから、もう1球、来るんじゃないかと思っていた。自分の思い切りの良さが出せた」

 本塁打の直前には同じフォークにバットが空を切った。自虐的に振り返った豪快な空振りを伏線にし、狙い澄ましての1発だった。

 落合監督はしてやったりの表情だった。「そんなに、パカパカと点数が取れる野球はやっていない。らしいと言えば、らしいですね。こういうゲームは慣れているから落ち着いたもんでした」。ソフトバンクの左腕和田の前に6回まで無安打。自軍の先発チェンは1、3、4回と得点圏に走者を背負いながら何とか1失点に抑えている状況だった。それでも、落合監督は落ち着いていた。選手、スタッフも同様。リーグ最低打率で優勝したチームは勝負どころを心得ていた。

 試合前、落合監督は数少ない好機をものにするため、打線に“刺客”を潜ませた。指名打者の選択肢は一塁ブランコ、左翼和田と2つあったが、和田を選び、小池をスタメンに入れた。先発が予想される和田との対戦打率4割7分1厘。8回に和田からヒットを放ち、延長10回には馬原まで打った。伏兵の大仕事はまさに思惑通りだった。

 延長10回、小池が追い込まれてもフルスイングできた理由がある。8年間、落合監督は見逃し三振を最も嫌った。代わりに、初球打ち凡退だけは絶対に責めなかった。「打てる球は何球もこない。打者っていうのは、追い込まれたら苦しくなるんだ」。時に早打ちと評されることもある小池だが、大舞台でも伸び伸びとバットを振っていた。

 最後の花道となる日本シリーズ開幕当日、落合監督は選手に何も言わなかった。選手たちも普段通りの動きで応えた。8年間で5度目のシリーズ。経験の力について問われた指揮官はうなずいた。

 「(日本シリーズは)なかなか慣れるもんじゃないけど、そういう部分はあるだろうな。動けていた」

 最強と言われるソフトバンクに手応え十分の勝利。オレ流指揮官、最後の花道は最高の形で始まった。【鈴木忠平】

 ◆小池正晃(こいけ・まさあき)1980年(昭55)5月15日生まれ、神奈川県出身。横浜高では松坂(レッドソックス)と同級生で3年時に甲子園春夏連覇。98年ドラフト6位で横浜入団。08年途中に中日にトレード移籍。183センチ、88キロ。右投げ右打ち。通算成績は708試合に出場し、1551打数384安打、打率2割4分8厘、50本塁打、167打点。推定年俸2900万円。