今年4月に国内フリーエージェント(FA)権を取得していた阪神久保康友投手(33)が12日、権利の行使を表明し、退団が濃厚になっていることが明らかになった。代理人を通じて阪神側にFA宣言する意思を伝えた。球団は交渉を継続する方針だが苦戦必至。今季こそリリーフを務めたが、10年には14勝を挙げており、来年は先発起用する構想だった。実力派右腕の流出は大きな痛手になる。先発陣の手薄なDeNAが調査を続けており、移籍先の最有力に浮上した。

 来季、9年ぶりのV奪回を目指す和田阪神の戦力構想が崩れた。この日、久保は代理人を通じてFA宣言する意思を阪神に通知。西宮市内の球団事務所で高野栄一球団本部長が「他球団の話を聞きたいとのことです。FA宣言の書類をいただきました」と明かした。

 09年に加入後、おもに先発で活躍していた久保は今季、救援に転向していた。不動の守護神だった藤川が米大リーグ・カブスに移籍したため、抑えに抜てきされたが失敗。来年は再び先発陣の一角として計算していた。高野本部長は「もう1度、交渉を継続したい。必要な戦力だと考えています。残ってくれればという気持ちでいましたので」と説明。来季の「先発手形」も用意して慰留に努めたが、合意に達しなかった。

 阪神は宣言残留も認めて交渉を続ける方針だが、厳しい情勢。新たに他球団への移籍が濃厚であることが判明。09年9勝、10年には自己最多14勝を挙げるなど、阪神では38勝を重ねた。先発として試合を作る能力に優れており、安定感抜群だった。久保が退団すれば巻き返しを図るチームにとって、大きなダメージになる。

 久保はトップアスリートとして、いかにパフォーマンスを発揮するかを常に模索し「投げる哲学者」の異名を取る。今季序盤はリリーフで打ち込まれ、2軍降格も味わった。先発としての特長が浮き彫りになり、先発でフルに働ける環境こそ最善の選択肢だろう。新天地として最有力候補に浮上するのが、獲得調査を重ねているDeNAだ。

 今季はブランコらが加入した強力打線で勝負し、6年ぶりに最下位を脱出したが、一方で投手力の弱さが目立った。開幕からローテーションを守ったのはベテラン三浦だけ。三嶋と井納らが活躍したが、陣容は整っておらず、先発陣強化は今オフの最重要課題になっていた。そこでリストアップされたのが投球術に秀でて経験豊富な久保だった。

 阪神にとって同じセ・リーグでもあり、久保が移籍すれば、来年からは敵として戦う。今季は対DeNA戦が10勝14敗と負け越すなど厄介な相手だけに、マイナス要素が増える。マウンドでは表情を変えず淡々と投げた。これまでも阪神残留が危ぶまれた実績派右腕の流出は現実味を帯びる。

 DeNAは阪神久保のFA権行使の発表を受け、獲得に向け即アタックするとみられる。最重要課題である先発陣強化のため、宣言した場合に備えて、既に補強候補としてリストアップ済み。複数年契約を用意する見通しだ。

 今季はリーグトップの630得点を挙げ、シーズン終盤までCS争いに加わってきた。しかし数年来の課題である投手力強化は思うように進まず、チーム防御率はリーグワーストの4・50に終わった。特に先発陣の補強が急務で、秋季キャンプ中の中畑監督も「先発ローテーションをしっかり固めることが大事。そこが来季に向けて一番の課題」と話してきた。

 今シーズンの先発登板こそなかった久保だが、球団は先発を託す力はまだ健在と判断。速攻のラブコールで誠意を見せ、移籍交渉に臨むことになりそうだ。

 ◆久保康友(くぼ・やすとも)1980年(昭55)8月6日、奈良県橿原市生まれ。関大第一では98年センバツ決勝で横浜・松坂と投げ合い準優勝。同年夏は甲子園8強。松下電器から04年ドラフト自由枠でロッテ入団。05年は10勝3敗で新人王獲得。09年開幕直前に阪神に移籍。同年7月14日の中日戦で白星を挙げ史上最年少の28歳11カ月で12球団すべてから勝利を記録。今季は藤川のカブス移籍に伴い先発からクローザーに転向、6セーブを挙げた。181センチ、76キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸1億2000万円。