第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一奪還を目指す侍ジャパンは22日、宮崎に集合した。23日から合宿、対外試合5試合を行い、1次ラウンド初戦のキューバ戦(3月7日、東京ドーム)に備える。4番の筆頭候補で、攻撃の中核を担う筒香嘉智外野手(25)が大会へ向かう胸中を告白。野球の素晴らしさを伝える大きな挑戦が始まる。

 那覇から宮崎に向かう飛行機の機内。筒香は目を閉じて考えた。「大きな試合だということは分かっている。逃げようなんて気はない。目の前の状況を1つずつ、解決することが一番大事になる」。侍ジャパンの主砲としてグラウンドに立つ。そんな覚悟はとっくに定まっていた。考えていたのは、もっと突き詰めて野球人、筒香嘉智として第4回WBCで何を残せるのか。

 長嶋茂雄は「野球とは、人生そのものである」と言った。25歳の青年筒香も、そんな地平に足を踏み入れていた。

 筒香 プロ野球選手になることが、すべてじゃない。野球には同じプレーが1つもないし、いろいろな役割がある。その場、その場で考えてプレーをしなければいけない。人からの指示待ちではなく、自分で考えて、解決する力が必要。野球を通して社会に出ても通用する「考える力」を鍛えることができる。普段よりも注目度が高い国際大会で、子どもたちだけではなく、たくさんの人にそんな野球の素晴らしさを見てもらいたい。

 詰めて考えると、野球と人生はシンクロしていった。「もっと野球がうまくなりたい。そのために、もっと言えば自分が人間としてどう生きるべきかが大事だ」。

 なぜこんなにも、野球に取りつかれるのか。心のルーツを探した。2年前、プレミア12出場後にドミニカ共和国へ飛んだ。ウインターリーグに参戦し「知らない世界がたくさんある。技術もそうだけど、野球に取り組む姿勢とか環境面も。現地に行くことでいろいろと感じて吸収することができた」。昨季の44本塁打、110打点につなげたが「満足は終わった直後だけ」。目を向けた先はイチローだった。孤高の人の思考に触れたかった。

 食事をともにした。「『小さな満足』をたくさん繰り返すことが大事」の言葉が刺さった。「確かに大きな満足を得てしまうと、その次が重くなる。対外的に満足感を示すわけじゃないけど、自分の中の部分では、そうしていきたい」。一足飛びでは極められない。あのイチローがコツコツと、の大切さを説いている。大きな仕事をする前に“ふるさと”を見つめ直そうと大阪へ向かった。

 中学時代を過ごした堺ビッグボーイズを自主トレ地に選んだ。「今の自分があるのは、当時があったから。原点の場所です。考えて野球をするということをたたき込まれた」。静かな環境でバットを振り込んで届いた場所が「プレーする姿で野球の素晴らしさを伝え、子どもたちの野球離れを食い止めたい。野球人口をもっと増やしたい」。でっかい志を胸に携えた。

 志を果たすためには何が必要か。筒香は分かっている。「やっぱり勝たないと何も始まらない。それは相手の国も同じ。真剣勝負の中で想像もできないすごい勝負があるはず。それもまた野球の素晴らしさだと思う。もちろん、自分たちが世界一になるという強い気持ちは変わらない」。こんな男が侍ジャパンのど真ん中にいる。【為田聡史】